VOL.9 奥村雪男役・福山 潤 & 志摩廉造役・遊佐浩二
オフィシャルインタビュー
TEXT=鈴木 杏(ツヅリア)
久々の『青エク』で“音叉”を果たしてくれたのは、志摩と出雲だった
―――実はおふたりでの対談は本作初ということで、たっぷりお話を伺えればと思います。まずは今年1月より放送された『島根啓明結社篇』について少し振り返ると、志摩が正十字騎士團だけでなくイルミナティにも所属する二重スパイだったことが明かされる物語でもありました。遊佐さんはこの展開をどう受け止められていましたか?
ずいぶん前に原作で読ませていただいていたのですが、2011年当時はこんなにも志摩くんが活躍することになるとは、思っていませんでした。TVアニメだけで『青エク』を追っている方々にとっても、ショックが大きいだろうと感じました。
二重スパイってややこしいから、何話か経つと「結局どっちの味方なんだっけ!?」と分からなくなります(笑)。
どっちの味方でもあって、どっちの味方でもないのよ(笑)。
―――志摩の活躍という意味で、特に心に残っているシーンはありますか?
出雲ちゃんを助けたのち、「てめぇがイルミナティのスパイか」と言われ、正体が明かされるあたりまでの一連は、やはり一番印象的です。完全に味方モードだったのに、後ろから刺すところでの「それはアカン」というセリフを、最初は何気ない感じのお芝居で持っていこうかなと思っていたんです。でも「この段階から怪しさを出してほしい」というディレクションをいただき、そのすり合わせは必要になったシーンでした。
僕とのぶ(燐役・岡本信彦)は、志摩と出雲のおかげでチューニングができました。というのも、TVアニメとしては『京都不浄王篇』から7年経っていますけど、その間僕らは『ジャンプフェスタ』でちょくちょくその先の原作部分まで、声を当てさせていただいていて。だから『島根啓明結社篇』の収録が始まったとき、「アニメの話って、まだここだったんだっけ……!?」と、距離感なんかが少し掴めなかったんですよ。それもあって正直テストの段階では、探り探りで(笑)。それが志摩と出雲の声を聞いて、僕らも時間を巻き戻せたような感覚になりました。そのため音叉のように調律してくれた序盤の何気ないふたりの会話は印象に残っています。
見られたくない恥部を、志摩に見られてしまった感じです
――放送中の『雪ノ果篇』は終盤に差し掛かり、回を重ねるごとに雪男が大変な状況になってきています。
そうですね、めちゃめちゃ楽しくなってきましたね!
ふふふ(笑)。
振り返ると、『京都不浄王篇』を録っていた頃が、原作でもこのあたりの雪男の行く先が見えてきた時期だったんですよね。今までは沸々と内に溜め込むばかりだった彼が、7年経ってようやくそれを自由に表に出せるようになりました。僕としてもずっと演じたかったところでしたから、楽しんでやっています。
聴いているほうも楽しいですけどね? 要所要所で回想シーンが入るから、いつもの抑えた雪男を演じていたかと思えば、次の瞬間「ビビリはどっちだ!!!!」といきなり叫び出したりして(笑)。
情緒が不安定すぎる(笑)。
この人大丈夫かな?と思うシーンがいっぱいありました。
バンク(※過去の映像)を使っているところもあるんですけど、演出を踏まえ新録しているところもあるので、何バージョンも演じられることも面白かったです。
――そんな雪男が行う“危険な修業”について、志摩が知っていたのが第5話で判明します。
そうですね~、見ていましたね~。
“危険な修業”と言うあたりが、志摩の性格の良いところであり、人の悪いところですよね。あれは修業じゃないですから! 雪男としては、見られたくない恥部を見られ、辱めを受けるような感じというか。舌戦としては最上の切り込み方をしてくるのが、志摩らしいです。
しかもなんなら、見ていたのが志摩だという描写はないのよ。誰かは分からない人影が、ちょっと描かれているだけで。
どのくらい見られたくないことかというと、思春期に隠していたいやらしい本を母から見られた感覚に近いかもしれません。
見つかって、しかもそれを並べられちゃってね? 特に雪男はそうでしょうね。弱いところを見せたくないだろうから。ルシフェルにも「…君は弱い」「心もそう強くない」と言われながら、雪男自身はまだそこを受け入れられていないじゃないですか。志摩としてはそんな彼を、少し楽にしてあげようという意味合いも込めて、イルミナティに誘っているんだと僕は思うんです。このまま行っても、結論は出ないよ?と。
多分このふたりって、何か抱えるものがあったとき、雪男は外部をシャットダウンして自分の中にしまい込むのに対して、志摩は二重スパイが性に合っていることからも分かるように、それを外に出せちゃうタイプだと思うんです。そういう相反する彼の行動が、雪男にはどんどんストレスとなっていき、結局衝突を起こしてしまう。そんな構図も見えてくる面白い掛け合いでした。
手のひらの上で転がされる雪男と、志摩の真意
――そして、過去のインタビューでもたびたび話題に挙がった雪男の名ゼリフ「僕が全力で孕ませる」も、志摩が「ケッサクでしたわー!」と、これまた覗き見ていたことが明かされます。
雪男としては何の他意もないので、いやらしいセリフでもないんですけど、この時代にそのままアニメで描くのは、攻めているなと思いました。
役者じゃなきゃ、こんなセリフ言えないもんね。まあ志摩は優しいので「孕ませる」のほうをチョイスしていましたけど、シュラは「優しくしますよ」のほうをピックアップして、冷やかしていましたね(笑)。
頑張って背伸びしている雪男が、可愛らしいじゃないですか。真剣にやればやるほど面白いシーンでした。
やっぱり雪男は少年なんだなと感じます。
――志摩は冷やかしつつ、「芝居(ウソ)打つ時は真実(ホント)をベースにするんがセオリーやん?」と指摘してくるのが、また食えないというか。
そうですね、志摩くんはそういう人ですからね。兄の柔造にしたって金造にしたって、全然こういうタイプじゃないので、どうやってこれを身に付けたんだろう?と考えるんですけど。まあ若干、妹の弓からもその匂いはしつつ、本当に廉造は志摩家のなかでも異質な存在だと思います。ただ兄たちからは、厳しく躾けられていますからねえ。
それこそ修業という名の。
そこで生き抜く術として、自ら身に付けた身のこなしなのかもしれません。
――さらにここで再び志摩は、雪男をイルミナティに誘ってきます。
雪男としては完全に「鬱陶しい!」という気持ちでした。
(笑)。
いや、必ず痛いところを突いてくるんですよ。勧誘のようですけれど、あれのせいでどんどんそっちの道にしか行けなくなっていきますから。雪男の主観的には、囲い込みをされているような感覚かもしれません。過度に反発するあまり、極端な行動も取ってしまっていますし、そういう場面の前には、ルシフェルや志摩のことを思い出すきっかけがあったりしますから。自分では決めきれない状況下で、外堀りを埋められてしまっている。志摩自身は自分の役割をまっとうすべく、雪男をどう動かすかとかなり計算して行動に出ているはず。そのうえで監視もしていることを踏まえると、まさに志摩の手のひらの上でいいように動かされているんですよね。
志摩くんとしては先程も言いましたけど、雪男が悩んでいるからその解決策として誘っているのであって、本当にイルミナティになれとは思っていないと思います。自分に必要なものが得られるかもしれないから、来てみたら?という感じ。それに志摩は、イルミナティだけが完全な悪だとは思っていなくて、正十字騎士團も大して変わらない場所だから、正直どっちに転んでもいいと考えてるのだと思います。最終的に、自分の身の回りの人たちを守れればいい、という気持ちで行動していて、雪男にとってマイナスになることを言っているつもりはないんです。どうせここでどんな会話をしているのかも、各所にバレていますしね。
同じで違う、“弟”同士なふたり
――第8〜9話では、シュラから母の話を聞いたことをきっかけに、雪男は自分と正反対で真実を積極的には知りたがらない燐に激怒したり、かと思えば爆笑しだしたりと、情緒の乱れが見られます。
「ごめん… そうだったね…!」と笑って突き放すところは、演じていても超楽しかったです!! 別にあれはバカにする気も、拒絶する気もないんですよね。この感覚、同じ弟なら分かる人が多いんじゃないでしょうか。卑屈に見せているようで、実は相手を責めているというか。自分では変えることのできないコンプレックスを持ってしまった人間が、対照にいる相手にどう接するか?という話は、兄弟間に限らず、どんな関係性でもわりと潜んでいることかと思います。雪男としては、それを発露しているにすぎないシーンでした。演じるうえでは吉田大輔監督たちが作ったフィルムが、燐を責めまくる方向になっていて、見る人によってはそれが狂気的だったり壊れているように見えるかもしれませんが、とにかく笑う描写を丁寧に作ってくださっていました。僕のプランともそこがマッチし、アフレコも楽しかったシーンのひとつです。
雪男もここ最近で突然こうなったわけではなくて、小さい頃からの積み重ねが今爆発しているだけなんですよね。そういう意味では、赤ん坊のときに夜魔徳(ヤマンタカ)くんを継承し、 自分の生き方に悩んできた志摩と、似た部分があると思います。志摩家のほうはスパルタですし、明け透けに物を言ってくる兄たちなぶん、雪男のような捻じ曲がり方はせず育ちましたけども。
『京都不浄王篇』終盤で「ふざけるな!!」と燐を殴ったところでも、この片鱗は見えているため、なるべくあそこと紐付けられるようにしたいな……とも考えていました。TVアニメとしては期間が空いていますが、雪男のストレスはあのときから地続きであったと分かるように見せたいなと。
――こうして見ると、雪男と志摩は同じ弟でも、やはり全然違う印象です。
そうですね。
志摩くんの場合は妹もいるから、どちらの立場も分かるというのもあるのかもしれない。
それにちゃんとしたお兄ちゃんたちがいますから。
え……金造も?(笑)
大家族すぎて、ああいう人もいますよね(笑)。
――さらに第9話では、雪男が「知っている事を話して下さい」と、勝呂に銃を突き付けて脅す一幕も描かれます。
第1作目の頃から、雪男はああいう面も持った人だと捉えていました。あそこも「孕ませる」同様、本心でありフェイクでもありという、ひとつの手段なのですが。だからこの場面で「あ〜、いよいよここまで来ちゃったかあ……」といった、彼の情緒不安定さゆえの言動、という印象は僕は抱いていないです。
――そんな雪男を、志摩は「アンタええ加減にせぇよ」「俺は『相談しろ』てゆーたんですよ 『脅せ』とはゆーてへん」と咎めています。
悩むのは勝手だし、イルミナティに来る来ないも好きにしたらいいですけど、やっぱり身の回りの人に危害を加えてくるとなったら、黙ってはいられないですよね。特に坊に関しては。坊はなんにも疑わない人ですから。
そうですね。彼はダイレクトに受け止めてしまいますからね。ただ雪男としては、自分を咎めてくる志摩を「うるさいな」と思っているとは思います(笑)。
うん。そういう顔してたよ、あの子(笑)。
志摩と子猫丸の関係性が、雪男には羨ましく映るでしょうね
――志摩の話をすると、祓魔師認定試験を前に、詠唱騎士(アリア)ではなく騎士(ナイト)と手騎士(テイマー)を受けようと考えを変える姿が見られました。
出雲ちゃんも坊も燐も、周りの人たちがどんどん成長していくし、着実に先のことを考えているので、彼自身も自分の今後を考えるようになったんでしょう。それに二重スパイとなって、将来的にも誰も味方はしてくれないだろうから、自分の力で生きていかなければという気持ちもあるのだと思います。志摩家は庇ってくれるかもしれませんが、正十字騎士團は絶対庇ってくれなそうですし、イルミナティなんて志摩のことをなんとも思ってなさそうですから。元々はそうやって先のことなんて考えられない人だったんでしょうけど、二重スパイになった今は、うまくやらなければ死んでしまうかもしれない、という危険性は常に感じていると思います。
――それでも二重スパイを楽しいと思えるところが、志摩はスゴいです。
志摩くんのこれまでの行動自体には、そんなに嘘はなかったと思うんですよ。学園祭が楽しいだとか女の子が好きだとか、それもまた本心で。でもそんななかで、自分の生きる道をやっと見つけられて、それが“楽しい”という表現になっているのかなと捉えています。そもそも彼は夜魔徳くんを継承することも、自ら望んだわけではないですからね。志摩家の本尊を扱える立場になってしまい、勝手に期待を寄せられるのが鬱陶しかったでしょうし、周りの人たちが悩みまくっているのもまた鬱陶しかったでしょうし。だから『京都不浄王篇』で「面倒臭い!」と逃げようとした。それも本心だと思います。
そんな志摩を差し置いて、子猫丸は学園祭なんかでも、女子とイチャコラしているわけですからね?
子猫さんはモテるよねえ……。妹の弓もそのひとりだし。
ちょっとアイツだけは、仲間に入れられないな?って気持ちが、正直ある(笑)。
少し油断すると、某アーティスト風にメガネを吊るし出すからね(笑)。
小狡い使い方をしてくる(笑)。
――そんな子猫丸とは、第9話で志摩が「羨ましかった」と吐露すると、子猫丸に「そんなに恵まれていて贅沢な人」と返されるなど、ふたりの掛け合いが見られます。
子猫さんがご両親を亡くしているのも知っていますし、本当に入れ替われたらと羨ましがっているだけではないと思うんですけれど。やっぱり家のことが面倒臭い気持ちが、一番大きいのだと思います。逃げたいとまでは言わずとも、やはり志摩くんにとって重荷ではあると思うので。ただ小さい頃からずっと一緒に育ってきた仲であり、子猫さんも冗談めかして「夜魔徳の継承者として、明陀(みょうだ)のみんなを守る!」とヒーロー風の口ぶりを見せたりと、ああいった軽口を叩き合える間柄なのだなと改めて感じました。
雪男は友達がいませんから、そんなふたりは羨ましく映るでしょうね。彼はムッツリなので、平気なフリをしていますけど。雪男って普段はしっかり者の学生で、塾講師もしていて、祓魔師としては一応天才児とも持て囃されているじゃないですか。それも全部、ちゃんと自分の足で立つためにと、努力で身に付けたものです。理論武装ではなく実績武装をすることでしか、自分を保てなかった人ですからね。そんな状況でしたから、友達や仲間と過ごせることって、多分雪男にとっては羨ましいことだと思いますし、それを目の当たりにしなくていいように、塾講師という別の立場に立っているところもあるのでは。つまり、弱いんです、彼は。
“ヒロイン”坊! その“ちょいワル男”は、幸せにしてくれないですよ!?
――もうひとり志摩と関わりの深い勝呂については、彼がライトニングのマネージャー的に働くのを志摩は嫌がったり、「ウチの坊 純粋培養のクソ真面目やさかい あんま揶揄(からか)わんといてもらえますか?」と、ライトニングに直接物申す一幕がありました。
坊は気安く話せる友達ですけど、同時に僕ら明陀が盛り立ててきましたから、そんな人が誰かに従っているのは嫌!という気持ちが、まずあると思います。それより何より、志摩はライトニングのことが嫌いだと思います(笑)。
多分、完全な同族嫌悪ですよね。勝呂ってまさに純粋培養のお嬢様で、周りはそれに付き従ってきたという、言うなればヒロイン的立ち位置じゃないですか。そんなヒロインが、アウトローなちょいワル男に惚れてしまい、ついていってしまったのと同じ構図になっているわけです。そりゃあ周りは気が気じゃないですよ。
そうですよ! そいつは幸せにしてくれないよ!?と(笑)。それに立場的に坊と呼んで持ち上げているだけじゃなくて、彼の努力も悩みも知っているからこそ、支えてきたところもありますのでね。ただあんな男ですけど、変わらず坊が努力し続け、坊に取って良い方向に行くのであれば、まあ良いか……と志摩くんは思っているんじゃないでしょうか。
モヒカンを刈り、普通の頭にしてしまったのも含めて。
ピンク頭で派手髪なのは、僕だけになっちゃった(笑)。
――ではライトニングの率直な印象はいかがですか?
いやあ……。
胡散臭い!
嫌いですね! アイツ、心自体がないじゃないですか。
「この世界が好きだ」と言って人間好きな感じを出していますけど、それって自然界に存在する生物のひとつというカテゴリーでの“人間”を愛しているのであって、人格を持つ個々の人間を愛しているのかというと、そこは普通の人と同じく、自分の身近や関係のある人に限られるでしょうから。漫画やアニメでは彼の心の内も見せてもらえるから好きでいられますけど、そこが見えない状態でもし会ったとしたら……完全な黒ですよ。
一人ひとりを尊重してはくれないし。命についてどう思っているのかも、ちょっと怪しい部分があります。
そうですね。あとこれは僕の勝手な印象ですけど、志摩ってあまり物を持たなくて、結果部屋が綺麗なタイプな気がして。でもライトニングは部屋が汚いじゃないですか? それに志摩はお風呂にだってなるべく入ると思いますけど、ライトニングは嫌いでしょうし。だから絶対合わない。
うーん、モテないタイプだね、ライトニングは! かと言って、志摩がモテた事実も、ひとつもないんですが……(笑)。志摩は“良いヤツ”で終わっちゃうタイプ。
志摩の場合、深入りさせないように動いているのもありますよね。
ただ振られたときは、ちゃんとショックも受けるけどね(笑)。『島根啓明結社篇』でもダンスパーティーに誘っては断られ続け、「どゆこと…?」となっていましたから。本当、「あめみやって誰?」ですよ。でもとにかくショックを受けるということは、志摩にはちゃんと心がある証拠で、そこがライトニングとは違うと思います。
勝呂は物語だけでなく、人と人も繋ぐキーパーソン
――そんなライトニングは第7話で、奥村兄弟の育った修道院を訪れ、家族のように暮らしてきた三角(みすみ)を死に追いやってしまいました。
あれは殺したと言っても過言ではないです。ライトニングは頭がキレる人ですから、彼がモリナスの契約書を結んでいるであろう……というか、結んでいないほうがおかしいのは承知のうえで、情に訴えかけて自白させている。時の眷属・死神(デス)が出てきたことから、上に誰がいるのかも分かる……。このように、全部詰め将棋なんです。
意外だったのは、三角さんが亡くなった後、雪男はもうちょっと怒るのかと思ったんですよ。でも自分の出自のことや、なぜライトニングが身の周りを探っていたのかに意識が向いていた。
獅郎のことをはじめ、まだ真実は分かっていなくても、あの修道院がどうしてできたのかという、大体の推測はついていたんでしょうね。それでも三角さんの死を悼むことより、自分のことで精一杯というのは余裕のなさでもあるので、確かに遊佐さんのおっしゃるとおりです。燐と雪男にとって良い思い出だった修道院での出来事も、結局箱庭でしかなかったという真実をいよいよ知ることとなり、獅郎に抱いていた疑いも確信へと変わってしまいます。物語としては真相に入っていく、重要な展開でした。
――勝呂とライトニングが動くことで、全貌が見えつつありますね。
特に勝呂が動かなければ、物語が繋がっていかないと言えるほど、観る側はもちろん、雪男にとっても志摩にとっても、彼は今回重要です。情報を拡散するだけでなく、人と人を繋いでくれるのも、勝呂ですから。ライトニングもそんな勝呂の性格を把握したうえで、情報を渡しているでしょう。それもあって、ライトニングがギリギリ単なる変人には見えていない、という側面もあります。悪く言うと、勝呂はすごく便利に使われているんです、ライトニングに(笑)。
だから言ってるんですよ。アイツについていっても、幸せになれないよって!
自分ができないことをやってしまうところに、純粋培養の勝呂は惚れてしまった。
でも確かに、坊がいないと人間関係が繋がらないですね。第1話でライトニングが学園にやって来たときにも、まず出雲と今後について話していたし。さらに遡ると、『島根啓明結社篇』では出雲としえみが泣いているのを察知し、病室には入らず外で聞いていたこともありました。我々にあの動きはできません(笑)。
できないです(笑)。雪男は勝呂のように、ケアもしませんから。
奥村兄弟がギクシャクする原因は、雪男だと思います
――遊佐さんはほかに『雪ノ果篇』で印象に残っているところはありますか?
シュラの話はもちろんですが、今回描かなければいけない部分が非常に多く、泣く泣くカットされた原作箇所がけっこうあるんですよね。そのひとつに、志摩が八郎太郎をイルミナティに渡した部分です。その一幕が観られなかったのは残念でもあり、それだけ濃密な物語をやっているんだと再認識しました。ただギャグシーンがカットされがちななか、青森の旅館の女将さんが大変異質なキャラクターとして出てきたところは、面白かったですね(笑)。
旅館の場面は非常に丁寧に描かれていましたね(笑)。雪男としては最後の楽しいシーンでもありました。
――ちなみに最近の燐の活躍として、印象に残っているところはありますか?
『島根啓明結社篇』の学園祭で、ダンスしていたところかな?(笑)
いいヨダレでしたね。『雪ノ果篇』でも肉体的にはかなり頑張ってくれていますけど、刻一刻とシリアスな状況になっていくなか、彼は頭が追いつかず、いろいろ察せていないので。心情的にはひとり取り残されてしまっているから、その点で相当難しい立ち位置で、もがいているはずです。それも踏まえて、燐の活躍はここからですね。
――遊佐さんは奥村兄弟の関係性をどのようにご覧になっていますか?
兄がアレですから、弟は苦労しているだろうとは思います。福山くんも言っていたとおり、雪男って講師をしていて努力家で、一見しっかりしているじゃないですか。だからみんな、なんとかなるでしょうと思っているんじゃないですか?
やっぱり人って話さないと分からないんですよね。「アイツはしっかりしているから、大丈夫」だとか、身近にいるからこそ勝手にカテゴライズしてくることが、どれほど癪に障るか……という話で。大体兄貴って、こういうふうにちゃんと分かっていないんですよ。
志摩家のほうは、相当厳しい兄ですけど、別に志摩はそんな兄を嫌ってはいませんからね。だからこの兄弟のことも、分かり合えると思っているんじゃなかろうか?という、希望的観測で僕は見ています。
少なくとも奥村兄弟がうまくいっているのは、燐が料理できるからです。そこがなかったら多分うまくいっていないですよ。
そもそもこの兄弟がギクシャクしているのは、全部雪男のせい。雪男の問題ですからね(笑)。
ええ、そうなんです(笑)。最初こそ燐が無茶苦茶だからといったように映るのですが、ちゃんと見ていくと、雪男の問題なのが分かってきます。とにかく心の内を言わない人ですから。
『青エク』パーティーで叶えたい夢――中井さんに“アレ”を着せたいんです!
――約13年前のアニメ第1作目当時を振り返って、今とどんな変化があるでしょう?
僕個人としては、福山くん含めみんな全然変わらないというか。もちろんお芝居はさらにみんな上達していると思いますけど、空気感や話しやすさといったベースとなる部分は、変わらない気がします。
そうですね。明確に変わったことと言えば、最初は遊佐さんと僕くらいしか、カズ・ナカイ(こと勝呂役・中井和哉さん)をいじっていなかったんですよ。
あははは! そうね。
それが今では、『青エク』パーティーのみんながいじるようになりましたので。そうした意味で役柄だけでなく、実際の現場でもカズ・ナカイがヒロインになっています(笑)。13年もやっていると、誰もがいじれるようになるという。本人も最初は抗っていた部分がありましたが、今は全部受け止める方向に行っています。
だって当時、のぶとか(しえみ役の花澤)香菜ちゃんとか、20代前半くらいだったもんなあ。それはいじりづらいよね。
それが今や事あるごとに、最後にはみんなで中井さんに話題を振っていますから。(シュラ役の)佐藤利奈まで、時折その輪に加わるようになってきました。ますます良い雰囲気ができあがっています。
『青エク』の収録現場は、本当に楽しいです。『京都不浄王篇』から7年空いても、なんの違和感もなく学園生活をみんなで演じられていました。
――そんな今作の収録現場でのエピソードは?
「雪ノ果篇」第1話だったか、人数が多くて、ブース内がすごく狭かったことがあったよね(笑)。横並びの椅子が1列じゃ足りず、ガヤ録りの時3列くらいになっていたほどで。
ありましたね。『島根啓明結社篇』からは基本全員揃って収録ができていて、「また前みたいにやれるようになったね」という喜びがありました。久々のマイクワークも、忘れていないものですね。後は第1話でまずいじられていたのは、アーサー役の小野(大輔)でした。
僕らのヒロインはカズなんですけど、小野がいた場合、ライバルとして台頭してきます。
中井さんは雑にはいじりませんけど、それに対して小野は雑にいじれるので。
難しい言葉が出てきたら、「アーサーに聞こうぜ!」ってね。
「これなんだっけ?」。
「あ、記憶ないんだった」と(笑)。
それでみんな、緊張が解れていく感じです。それに小野はいじってあげないと、寂しくて死ぬタイプですから! 本人のためにやっています。
――いよいよ迫る『雪ノ果篇』のクライマックスへ向けて、最後にメッセージをお願いします!
『島根啓明結社篇』を経て、みんなの結束が強まったにも関わらず、ひとり奥村雪男という人が、ここからさらに面倒臭くなっていきます。
『ますますこじらせています(笑)。
彼が今後どうなってしまうのか、ハラハラしながら見届けていただけたらと思います。後はぜひ『終夜篇』の先の物語も、アニメで最後まで描いていただけることを願っています。
『終夜篇』の先ができたとしたら、僕ら『青エク』パーティーでやりたいことがあるんです。それは、カズ・ナカイの還暦祝いを一緒にすること!
赤いちゃんちゃんこを着せたい!
『青の祓魔師』ですけど、そこは赤で!
そのためにも我々は頑張ってまいりますので、ぜひみなさんにも引き続き応援していただけますと幸いです。青い炎、黒い炎……。
赤いちゃんちゃんこ!(笑)
よろしくお願いします!。