VOL.5 奥村 燐役・岡本信彦 & 奥村雪男役・福山 潤 & 霧隠シュラ役・佐藤利奈
オフィシャルインタビュー

TEXT=鈴木 杏(ツヅリア)

シュラはこんな気持ちで生きてきたのかと、胸が苦しくなりました

――『雪ノ果篇』では、まずシュラの生い立ちが明かされる、原作の『青森・八郎太郎篇』にあたるエピソードが描かれました。彼女を演じる佐藤さんは、率直にどんなお気持ちでしたか?

佐藤

シュラのことをこんなにしっかり描いていただけるんだと、ビックリしたのと同時に、音響監督の若林和弘さんが「よろしくね〜?」とニコニコおっしゃって。

福山

やだなー! どう“よろしく”なのか言ってほしいよね?(笑)

岡本

プレッシャーを掛けてきてますね!(笑)

佐藤

シュラの子供時代も演じるということで、たくさん出番があるからよろしくねと(笑)。それですごくドキドキしながら、収録が始まるのを待っていました。前回の『島根啓明結社篇』では出雲ちゃんのことがしっかり素敵に描かれていて、次はシュラのお話ということで、頑張るぞ!という気持ちや緊張や、いろんな想いが渦巻いていました。

――岡本さんと福山さんには、そんなシュラや佐藤さんがどう映っていましたか?

岡本

現場にはさとりなさんと八郎太郎役の高橋(英則)さんを、邪魔できない雰囲気があって、ブース内では福山さんとふたり、端っこに座っていました。

福山

本物の青森弁を付けようということで、僕らはそれを邪魔しちゃいけないなと、仲間を見守る感覚でした。

岡本

高橋さんとレギュラー作品の現場でお会いするのは、今回が初めてでした。最初にセリフを聞いたとき、本当に流暢で驚いたのですが、青森ご出身だそうで。さらに小形満さんと斉藤千恵子さんが方言指導で入ってくださり、お二人のチェックが加わることで、よりブラッシュアップされていました。

福山

何なら僕、最初「小形さんとそっくりな人がいる!」と思ったんだよね。まさか方言指導でいらっしゃるわけがない、さすがに若林さんも役なしで起用はしないでしょう、と思い込んでいたから。でも声を聞くたび、「小形さんの声だ……」と不思議に思っていて(笑)。

岡本

大ベテランの方ですもんね! リハーサル用の映像も、小形さんの声が入っていたんです。

佐藤

そうそう! それがとてもカッコいいんです!

岡本

だからさとりなさんもプレッシャーはあったと思いますけど、高橋さんのプレッシャーはものスゴかったと思います(笑)。

佐藤

八郎太郎は神様なので、シュラのものともまた少し違う、より古風な言い回しの方言になるんですよね。それがまた難しくて、微妙なニュアンスを「もう少し直そうか」とトライされていました。

岡本

半音の差みたいなところで。

佐藤

そうそう。聞いている側としては、どこが違うんだろう!?と思ってしまうくらい、細かな部分まで突き詰められていました。

福山

小形さんも良い意味で手加減しないので、逆にやりやすそうでしたよ。方言指導で怖いのが、「これくらいだったら、まあ良いよね……」とOKが出てしまうことが多いんです。そんななか小形さんは、僕ら声優側の人だから、そういうOKを出されるのは嫌だというのも分かっていらっしゃる。それで「うーん……(方言的に間違いではないけど)どうする?」「まだ全然やれます!」「じゃあまだダメだから、もう一回!」と。そのやり取りを見ていると、普段の収録であれば僕らも普通に喋るところですけど、せっかくふたりが覚えた方言を僕らの会話で上塗りしては流石にマズい!と思って、ノブとふたり、端っこでボソボソ喋るようにしていました。これがほかの人だったら、もっと茶化すんですけどね(笑)。

岡本

ゲストキャラが一番喋っているかもというくらい、珍しい事態でしたからね(笑)。

佐藤

突然呼ばれてあの役で、しかも青森弁でと、本当に大変だったと思います。

福山

素晴らしい熱演でした。

――シュラの生い立ちについてはどのように感じましたか?

佐藤

過去に何かあったんだろうな……ということは、原作でちょこちょこ描写されていましたが、改めてその詳細と共に、やっぱり獅郎がキーパーソンなんだなということが分かりました。彼女が獅郎に出会ってから今に至るまでをぎゅっと凝縮してくれているエピソードなので、そこを演じることができて、私も嬉しかったです。シュラってわりとちゃらんぽらんで、風の吹くまま気の向くままという印象ですが、三十路で死ぬという運命に抗う力も持っている気がするんですよね。でもそうしないんだというのが私は意外だったし、今まで見えてこなかった彼女の一面が見えました。きっとシュラはそういう段階も全部通り過ぎて、今に至っているんだろうなとも思うんですけれど。それが自分の人生なんだと脈々と刷り込まれていることもあり、諦めてしまっているんですよね。そんななか獅郎と出会い、目の覚めるように鮮明な“生きる意味”みたいなものを見つけることができた。だけど獅郎が死んでしまったことで、せっかく見つけた生きる意味をまた見失ってしまって。獅郎がいてくれたら、シュラも未来へ進むため、運命に抗う道を選んだと思うのですが、大きな喪失から、「燐や雪男がいてくれて楽しい日々だったから、もう良いんだ」と、再び諦めてしまったんだと思います。こんな気持ちで今まで生きていたんだと彼女のことを思うと、胸が苦しくなりました。それでも獅郎がふたりを残していってくれたから、最後の最後で「ありがとう」と伝えることもできていて。改めて、それを描かれる加藤和恵先生がスゴイなあと思います。ずっとそれぞれの家族のお話を描いているでしょう? その物語に、いつも揺さぶられっぱなしです。

岡本

本当にそうですね。

福山

加藤先生も僕らと同じ人間のはずなのに、一体どんな価値観を持っていればこんな物語が描けるんだろう?と思いますね。

燐と雪男がシュラを助けるために、同じ方向を向けていたのが嬉しくて

――おふたりはシュラの物語を見ていかがでしたか?

福山

シュラが魔剣を使えるのも、技名に「蛇」が入っているのも、何かしら理由があるんだろうとは思っていましたが、八郎太郎大神と契約を交わしてしまった血族の人ということが分かって。姿形は同じまま、子を為しては三十路になると死んでいく運命を受け継いでいるから、短い時間のなかで自分自身の人生を歩むことができないんですよね。一方で不死の八郎自体は、ひとりは嫌だと思いながら死ぬこともできない。そうしたさまざまな死生観が描かれ、さらにその輪に獅郎も入っているのだと僕は捉えていました。観る方も同じ生い立ちではないにしろ、何かしら理解できる部分があると思います。もしシュラが子を為さずに死に、一連の流れを止めたとしても、それは諦めではなくて、能動的で前向きな選択かなと思いますし、でも対外的にはそれは後ろ向きに見えるでしょうし。そういうことも若い頃の自分は受け入れられなかっただろうけど、年を重ねた今の自分なら理解できる。そんな死生観が凝縮されているお話で、その点でも面白かったです。

岡本

シュラにこんな過去があったのかと、衝撃を受けましたし、燐も深くは聞いてこなかった彼女のことを知って、衝撃的だったんじゃないかなと思います。ただそういうときでもまっすぐ向き合うのが燐の良いところで、血は繋がっていなくてもシュラを家族のように想って、まっすぐ向き合い話をしていた感じがしました。個人的には、シュラを助けるという点において、燐と雪男が同じ方向を向けていたのも嬉しかったです。そこだけは意見が合致していることに不思議と安心感があって、ふたりの絆みたいなものが感じられました。ただ後半はちょっと、雪男の様子がおかしかった気もしますけど。ビックリする“パワーワード”も発していたので(笑)。

佐藤

真面目さゆえのね?(笑)

福山

何だろう? 何かおかしなこと、言ったかな?

佐藤

岡本くんもおっしゃったように、なんとかシュラを助けようとしてくれるふたりを見て、全然違う兄弟だけど、根っこは一緒なんだろうなと感じました。シュラとしてはそこがまた獅郎と重なるし、私も胸に来るものがあります。燐はストレートな言動をするタイプで、対して雪男は雁字搦めになりがちなタイプで、だけどふたりとも振り切ったときのパワーは一緒じゃないですか。“パワーワード”もそうですけど、燐はあらぬところにボーン!と振り切れるし、雪男はそんなお兄ちゃんが羨ましくて「僕は兄さんみたいになれない……」とぐじぐじ言うけど、あなたも大概だよ?という。似た者同士な兄弟なんだよなって、私はニコニコしているんです。

岡本

何なら雪男のほうがヤバいまでありますからね!

佐藤

そうなの! 真面目な人ほど、ヤバいんですよ。

福山

普段押さえ込んでいるぶん、反発力があるから(笑)。

岡本

燐は常時解放できていますからね(笑)。でも雪男だって、常人にはできない言動をしていると思います。

佐藤

今回も雪男の振り幅はスゴかったです。とにかくシュラを助けるために、ふたりが同じ方向を向いてくれているのが、私は嬉しかったです。「この子たちがいてくれて良かったね、シュラ……!」という気持ちになりました。

パワーワード”すぎる問題発言も、雪男的には一番いやらしくない言葉選び?

――今回は燐と雪男のふたりで任務を行う、という点も新鮮でした。

岡本

ふたりだけの任務って、今までなかったんじゃないですかね? 『ジャンプフェスタ』でも披露していた旅館のくだり、一緒の布団で寝るのか?という掛け合いなんて、まさに「こんな奥村兄弟が見てみたい!」と思う方にとって、理想が詰まっていたシーンではないでしょうか。

福山

一番一緒にいたくないときに、ふたりでの任務に行かされていますからね。女将さんも気を利かせてくれて、コミカルですけど、雪男としてはたまったもんじゃなかったです(笑)。

岡本

しえみに告白したと雪男に話してしまうのも、燐は元来ストレートな性分だから、言わないでいるほうが気持ち悪かったのかもしれません。

福山

ただ、聞かされる側の身にはならないんですよね、燐は。

岡本

そうですね、そこまでは考えが至らないかもです(笑)。

佐藤

秘密があるのは嫌だ、全部言いたい!ってなるんだよね? きっと(笑)。

福山

嘘が許せないというのもあるんでしょう。こっちは「人の身になれ!」と思いますよ。

岡本

優しい嘘だってあるんだけどな……っていう。急に大人びた面を見せることもある燐ですが、基本的にはまだ子供です。

――それでは先ほどから印象的だったと挙がっている“パワーワード”こと、第4話に出てきた雪男の「僕が全力で孕ませる」の一幕について、お話を伺えればと思います。

福山

原作で読んだときも、「どうした……?」と思いました。そして「雪男、なぜそのワードをチョイスした……?」とも思いました(笑)。緻密に考えを重ねた結果、これに行き着いたんでしょうが、「全力」はそこで使わないんだよと。「全力で〜〜」は僕自身は過去何度か演じたことのあるセリフで、馴染みのある言い方でしたけど、普通の人が聞いたらおかしな言葉なんだよな……って。

岡本

福山さんと「あのワードはそのまま言うんですかね?」と、話していたんです。少し強すぎる表現として、意図しない形で受け取られてしまうかもしれないと思いましたし。でも台本を見たらそのままだったので、福山さんのお芝居に任せた!という信頼があったのだと感じました。

福山

文脈的には間違ってないし、いやらしさも一切ないけれど、今は文脈ではなく単語にみんな反応してしまう時代だからね。僕としては、変に手心を加えてしまうと、逆に意味を持たせてしまうことになりかねず、かえって意図しないことになると思ったので、そのまま行けて良かったです。

佐藤

私は雪男らしい発言だなと思いました。彼、絶対そういうことに疎そうじゃないですか? だから一生懸命言ったのが、このワードなんだろうなと。

福山

恐らく彼的には、一番いやらしくない言葉を選んだのだと思うんです。それがかえって、直接的すぎる表現になってしまったんでしょうね。

佐藤

生物の授業みたいになっちゃった。

福山

だから僕もセリフのとおり、全力でやりました。そして怒られました(笑)。

岡本

テストで2回繰り返してましたもんね?(笑)

福山

「もう一度言う!」とアドリブを入れて、「言うなー!」と怒られました。収録のとき、こういう部分で楽しんでしまうたちなんです。

佐藤

このセリフを見て、私はシュラと同じリアクションで、「何か考えがあるんだよな…雪男?」と思っていたんですけれど。話が進むに連れて、「あれれ、どうなってるんだ……!?」という心境でした。

福山

パワーワードのほうに引っ張られがちですけど、演じながら一番人としてヒドいことを言っているなと感じたのは、「老いる方の辰子に子供が生まれたら説得して僕が殺す」のくだりです。八郎の信頼を得るために致し方なかったとはいえ、非情さでの振り切り方がちょっとどうかしていると思います。現実主義的というか、階段を駆け上がりすぎるところがありますね。

岡本

雪男はスイッチが入ると、ああいう言動をしちゃいますもんね。ただ温泉で「お前もしえみが好きなのか?」と燐に聞かれたときも、本心を言えなかったし、そういう性分なのかなとも思ったり。

福山

それはそうだよ。雪男は弱みを見せたくない人だから。

佐藤

特に兄さんにはね。

――その後燐が、雪男に撃たれたと見せかけるシーンもありました。

岡本

原作を読んだときはビックリしたんですけど、ある程度ふたりの間には信頼があったのかなと思っています。その信頼が確信に変わる瞬間もあって、最終的には安心感を覚えました。もしかすると今回の道中、それこそ旅館なんかでふたりで過ごす時間があって、10代の学生らしい会話ができたのは、大事なことだったのかもなと。

福山

燐は撃たれても死なないわけだけど、それを撃てるかどうかはまた話が別ですから。

岡本

雪男なら本当に撃つかもしれない……と、少しでも思ってしまった自分を恥じました。

――そのほかに奥村兄弟の掛け合いで、印象に残っているところはありますか?

佐藤

私は終盤のふたりの会話も好きでした。「催眠にかかるから目を見るな!」ってギャンギャン言っているところは、「これこれ、こういうふたりが見たいんだよね!」と楽しかったです。最近は喧嘩ばかりだったのもあって、『青エク』の良いところが詰まっていました。

福山

「絶対に“目”を見るなよ!!」「催眠は操られるって意味だぞ」という言葉からも分かるとおり、雪男のなかで燐がどれだけバカなのか、見積もりが低いんですよね(笑)。

岡本

そしてせっかく教えてもらったのに、燐はさらにその上を行くバカでした(笑)。パワーワードのくだりとこの掛け合いとを見ても、今回の雪男は半端じゃない振り幅なのが分かります。

シュラを通して見えてくる獅郎と、彼が残してくれた家族のようなふたり

――シュラの過去が明かされるにあたって、獅郎の過去も一部明らかとなりました。彼の言動や人となりはどのように感じられましたか?

岡本

雪男よりは燐っぽい人だったのかなという印象はありつつ、そんな人が不器用なりに頑張っている姿が可愛らしかったです。ある意味年齢不詳にも感じましたし、個人的には攻撃時にバズーカをよく使うんだなというのも印象的でした。第1作目第1話当時は分からなかった獅郎のことを、シュラを通してたくさん観れた気がします。

福山

何が人を変えるのか?と考えるときに分かりやすいのが、子供を持つかどうかがひとつ挙げられるのかなと。それを踏まえて、燐はずっとお父さんの獅郎だけを見てきて、雪男は祓魔師(エクソシスト)の面も知っていて、ただどちらも自分たちを引き取ってからの養父の彼しか知らないんですよね。それに対してシュラやほかの人たちは、それ以前の獅郎を知っているわけで、そこを埋めていくピースとなるのが今回の物語でした。雪男は「父さんだって兄さんが思っているような人じゃない」と言っていましたが、その意味が明確になってきたなという印象を受けます。獅郎は多分シュラと同じで、“先が決まってしまっている人”だったと思うんです。シュラの場合は三十路までしか生きられないという運命に囚われていて、獅郎の場合は恐らく自分が長くは生きられないことを分かっていて、かつその輪から出られないことも分かっていた。それを踏まえてじゃあどう生きていくかというところで、ふたりは違う環境にあったのも含めて、シュラが獅郎に惹かれたのはそうした部分が大きかったんだろうなと。人間にとって、先があるかないかはとても重要なことであり、ふたりはそこを見せてくれる存在です。

佐藤

私は今回獅郎を見ていて、カッコいいなと思いました。雪のなかで八郎とふたりきり、何も楽しいことがない閉ざされた世界で生きていたであろうシュラにとって、獅郎が戦う姿は、パッと光が射すものだったのだろうなと。そんな誰にも負けない強い男が、ふたりを育てるようになってから、彼女には“老いぼれて弱くなった”ように映ったんですよね。本当は年を取った獅郎はさらにカッコよくなっているんですけど、当時のシュラにはそれが分からなかったというか。それがもどかしくて。でも八郎とのことに決着をつけたシュラを見ると、獅郎を彷彿とさせられ、ふたりが似ているなと感じました。ふたりの置かれた境遇は少し違うけれど、欲しているものは同じで。でも獅郎がシュラにそれを与えることはできなくて。だから彼はシュラの手を離して「ちゃんと生きろ」と言ってくれたんですけど、まだ若かったシュラにはその意味がよく分からず、迷子になってしまった。そんな彼女の前に、獅郎と同じものを持つふたりの兄弟が現れて、獅郎が言ってくれたことの意味や、彼が考えていたこと、大切にしていたことが、彼女にも理解できたのが良かったな……と。そして彼ら兄弟がいるのも、獅郎がいたからなんだということが感じられました。

――燐と雪男にとってのシュラ、またシュラにとってのふたりはどんな存在だと捉えていますか?

岡本

燐目線のシュラは、気の合うお姉ちゃんみたいな感じなんです。激しいツッコミも入れてくれるし、ストレートに物事を言ってくれるし。燐は誰の言葉を受け止めれば良いかあまり分かっていない節も恐らくあるなかで、波長が合うのか、シュラの言葉はスッと入ってくるんです。また一緒に修業もしていたりと、いろいろなことを教えてくれる師匠的なイメージもあります。

福山

雪男自身もそこはよく分かっていないと思うのですが、いくつもの面があるのかなと。家族のお姉ちゃん、近所のお姉ちゃん的な人、自分にはよく分からないこだわりがある人。それから初恋の人ではないんでしょうけど、多少なりともそうした想いのある相手というか。好きな人というと年相応の少年らしくしえみが挙がるけれど、シュラが獅郎に抱いていたものと同じような感覚を、雪男もシュラに持っている部分はあるのではと。とにかくずっと近くにいる人だから、言葉やカテゴライズはしていなくて、いざ彼女のことをゾーニングしようとすると、とても困ってしまう立ち位置にいるんだろうなと捉えています。

佐藤

岡本くんが言っていたように、シュラにとってふたりは弟ではないけれど、でも家族みたいなものなのかなと感じます。まずシュラにとって獅郎は憧れの人で、でも家族にはなれなかった人ですよね。そんな獅郎の遺伝子というか、似たものを持つふたりは、彼女にとって家族に近い存在なのかなと思いました。ふたりの生きている姿を見られて、燐からは「俺は祓魔師(エクソシスト)になる」という言葉も聞けて、「私の人生はここで終わっても十分だ」と、諦めだけじゃなく心からそう思えたんだろうなと。そんなところにいたシュラを、ふたりが引っ張り上げてくれました。単に“家族”というワードだけだと、ちょっと違うのかな?とも思うし、表現が難しいんですけれど……。

岡本

確かに難しいですよね。家族に近い、というか。

佐藤

そうなの。家族じゃないんですけど、何て言ったらいいんだろう? とにかく獅郎からふたりを託されているから、やっぱり彼女にとって彼らは弟みたいな気持ちなのかなと思います。

ライトニングと志摩は、“ズルい人”です

――八郎太郎についてはどのようにご覧になっていましたか?

佐藤

シュラも「お前は可哀相な奴だ」と言っていましたけど、私もそう感じました。彼はたぶん、辰子のことが好きだったんですよね。それもすごく好きだったんだろうなと思います。でも彼は不死で、人としての愛し方がたぶん分からなくて。だから血が繋がってさえいれば、同じ“辰子”だとして、自分の側に永遠に置こうとしてしまった。そうでもしなければ生きていられないくらい、実はとても寂しくて追い詰められていて、その本音が見えるセリフにもグッときました。とんでもない愛だなと思いますし、切なくて。シュラにしたことを考えると本当にヒドいけれど、役から離れて見た彼はなんだか憎めなくて、幼い子供のようなイメージです。人の道理も、自分自身のことも、何も分からないんだろうなと、可哀相に思います。

福山

よく不老不死を求める人がいますけど、なったらなったで彼のようになってしまうんでしょうね。不死というのは本当のところ、寂しいものでしょうから。

――3人を取り巻く人々にも動きが見られる今作ですが、個人的に注目度が高いのは誰でしょう?

岡本

ライトニングと勝呂の関係性は、ここからどうなるかも含めて、注目したいところです。原作を読んでいる段階から、ライトニングはズルいキャラクターだなと思っていました。この人、人気出そうだな……!?みたいな。

一同

(笑)。

岡本

人間離れした感覚や天才的な素養があるのかも……という、人間側の未知なる存在です。下手するとある意味、聖騎士(パラディン)より強いのかもしれないとすら思わせる、謎多き立ち位置で羨ましい限りです。こんなの少年はみんな好きになるじゃん!と思います。同様に、志摩もズルい人だなと思っていて。今後雪男の行動を制する場面が出てくるんですけど、そこで志摩の本心が見られた気がするし、彼の仲間想いなところが出ていて、好感度を上げに来たな……?と思いました(笑)。

福山

洒落臭いよなー?

岡本

未知属性って、やっぱり人気が出る気がするんですよね。知りたくなってしまうから。

福山

ミステリアスな人って、普段見えない意外な一面や本心が描かれるものじゃないですか。そのアドバンテージがあること込みで、キャラクターをご覧いただきたい!

岡本

なるほど?(笑)

福山

今は中身が分かるから好感を抱いているんだろうけど、実生活でその素顔を見ることはできないんだよと。それでもあなたたちは本当に、この人を好きになるのでしょうか?と、僕は問いたい。現実にいたら恐らく社会不適合者ですよ!? こういうことを言って、人気者たちのイメージを下げていこうという魂胆です。

岡本

確かにヤバくて、怖い人たちですからね。

佐藤

そんなことしなくても大丈夫だから!

岡本

未知の強さというところでは、ルシフェルは危ない気がするな。雪男と波長が合っちゃったらどうしよう!?と思いながら、原作を読んでいた記憶があります。

福山

『島根啓明結社篇』ではまだ分からなかったことも、『雪ノ果篇』からいろんなピースが絡み合って明かされていくので、そういう意味では志摩を中心にここから面白さが増していくんだろうなと思うと、やっぱり志摩の注目度は高いです。ただ彼だけじゃなく、今まで名前がチラホラ出ていた「三賢者(グリゴリ)」や「四大騎士(アークナイト)」たちのセリフや出番も増えてくるので、今後重要になってくる彼らのことはぜひ覚えておいてください。少し話が逸れますけど、僕はなぜアーサーが聖騎士をやれているんだろう?と、不思議なんですよ。

一同

(笑)。

福山

正直ずっと疑っています。

佐藤

“あいつ聖騎士じゃないんじゃないか説”ってことですか?

福山

今までのアーサーは、「あんな人だけど、何だかんだ、ちゃんと聖騎士らしいよね」感があったじゃないですか。それがライトニングをはじめ正十字騎士團を率いる人たちが続々と出てきたことにより、「本当にアーサー・オーギュスト・エンジェルが最強とされる聖騎士でいいの……?」という疑問が、みなさんの頭にもよぎったら、個人的には嬉しいです。

岡本

彼だけ本当に何も知らないですからね(笑)。

佐藤

ライトニングに全部任せているって、言っているもんね。私はしえみちゃんと燐のこれからもすごく好きなので、ふたりがどうなるんだろうというところに注目しています! しえみちゃんを演じる(花澤)香菜ちゃんのお芝居が、またすごく良いんですよ。

福山

確かに。

岡本

しえみも本当に素敵な人ですしね。

佐藤

それからシュラ目線だと、やっぱりメフィストかなと。彼の動向はずっと真意が読めず、シュラはそれにイライラさせられ続けているので。道化のように振る舞う彼が、一体何を考えているのか、気になります。

福山さんはどの年齢になっても、ずっと楽しそうに見えます

――3人での座談会は久しぶりということで、13年前に放送を開始した第1作目当時の思い出話もぜひ伺いたいです。

福山

そうですか、もう13年になりますか。

福山

第1作目が始まった当時、獅郎役の藤原啓治さんが40代半ばだったと思うのですが、僕もその年齢になろうとしています。

佐藤

えー! そうですか!

岡本

当時の僕からすると、大変渋くて貫禄があり啓治さんはもう少し上の年齢にも見えるくらい、雰囲気がありました。

佐藤

自分も当時の啓治さんと同じくらいの年になっているのかと、啓治さんのことを思い出してしまいますね。私のなかで、長らく獅郎は啓治さんで……。『京都不浄王篇』から平田(広明)さんに変わられたのですが、シュラは獅郎と絡んでいなかったので。それで今回、平田さん演じる獅郎と過去のエピソードで初めて掛け合いをさせていただき、私のなかにふたりの獅郎がきちんといてくれているなという感覚を得ることができました。とてもありがたかったです。どちらの獅郎も、大好きです。

――ちなみに佐藤さんから見て、13年前と今とで、岡本さんと福山さんに感じる変化はありますか?

岡本

まず髪型ですよね?(笑)

福山

ええ、ええ。

佐藤

それ以外は特にないような?(笑) ただ燐は、演じていると岡本くんの知性が出がちというか、毎回若林さんから「賢くなりすぎているよ。燐はもっとバカなんだから!」と言われているのを見ると、この13年で岡本くんが、相当いろんな経験をされてきたんだろうなと感じます。

岡本

岡本信彦が積んだものが燐に出るようになったと、ご指摘を受けていまして。僕からするとおふたりは当時からいろんな現場でお世話になっている先輩方で、さとりなさんとは別作品ですがふたりでラジオのパーソナリティをして、バンジージャンプまでやりましたし。

佐藤

そんなこともあったね(笑)。

福山

そう考えると、いろんなことが変わっているからね! 『青エク』第1作目のときは、僕とさとりな、若さん(若林音響監督)、朴役の高梁(碧)と4人で、新宿の居酒屋に飲みに行ったこともあったし。

佐藤

行きましたね! 懐かしすぎる。

岡本

えー! そんなことがあったんですか!?

福山

シュラが出てきてすぐくらいかな? 「これからよろしく!」と。その後気付いたら、高梁は僕の共同経営者である立花(慎之介)と結婚しているし(笑)。僕はそういう話題に関心がなくて、全然知らなかったから、報告されたときビックリしたもん!

岡本

それはビックリですよね(笑)。

佐藤

福山さんもお変わりない印象ですけど、やっぱり積まれたものがあるから、うにゅにゅにゅ……と悩む雪男を、今回さらにぐにゅにゅにゅにゅ……!と表現されているのがお見事です。

福山

悩む雪男を演じるのがすっごく楽しかったので、早くみなさんにも観ていただきたいです! ああいうシーンをアニメで演じられる機会って、滅多にないんですよ。アニメーションって声のお芝居だけではなく、作画のタイミングや演出込みで完成するもので、その点、今作は吉田大輔監督たちと一緒になって作ることができたな、という手応えがあります。監督たちがどういうものを作りたいのかまず提示していただき、それを受けて僕がどう声を当てるかというリレーが、すごく上手くいったなと。

岡本

福山さんはどの年齢になっても、ずっと楽しそうに見えます。それこそ『青エク』でガッツリ共演するとなったとき、「これからが楽しみだ」と話されていたのがずっと記憶に残っているんです。「40になったら40の、50になったら50の芝居ができるから、俺は早く歳を取りたいんだ」って。

福山

言ってたね(笑)。

岡本

僕はどちらかと言うと、八郎太郎派だったので(笑)。今の僕より下の年齢のときに、そんな観点をすでにお持ちだったのがスゴいなと、今も自分のなかで響いている言葉なんです。実は『終夜篇』の収録でも、福山さんのお話で自分のなかに残っているものがあって。「演じるうえで、コミュニケーションが大事になる作品か、『このカットがどれだけカッコいいか』と子供たちや観ている人に夢を与えるのが大事な作品か、大きくふたつに分かれるよね」と。お芝居のやり方という点でも、ジャンル分けみたいなものがある時代なのかと感銘を受けました。福山さんの言葉はそうやって吸収させていただくものばかりです。13年前は13年前で、収録後の電車内でもいろんなお話をしましたし。

福山

乗り換えの駅までの20分ほどのなかで、ノブと話すのが恒例でしたね。

岡本

当たり前なんですけど、読解力って大事だなと改めて学んだり。それこそ当時は、燐を演じる際、あまり何も考えずにただただ叫んでいたんです。新人にできることは何だろう?と考えたときに、とにかくデカい声を出すことだな!と思ったんです。気持ちで行こう!って(笑)。

福山

それが基本だもんね!

佐藤

良いことだよ!

岡本

それで2012年の劇場版でも冒頭から大声を出したところ、啓治さんから「うるさいよ!」と言われたのも覚えています(笑)。

一同

(笑)。

岡本

「お前最初からそんなに出したら、後半どうするんだよ?」って。ああそっか!と気付かされました。

佐藤

優しいね。

岡本

そうやって『青エク』で積んだいろんな経験が、今の自分に繋がっているのを実感しています。

福山

『青エク』でこういう真剣な話をすること自体、恐らく13年ぶりなんですよ。第1作目の第1クールから『終夜篇』までは、たぶんしていなかったから。

岡本

確かに。令和版のお話をいただくことができました。ほかにも経営者同士というか、育成者としてのお話もするようになりました。

福山

それはもう立場も全然変わって、「こっちはこうしているんだけど、そっちはどうしてる!? 教えて、教えて!!」と僕が教えを乞う側です。

岡本

いやいや、全然そんなことないです!

第1作目から数年後、ノブに「あのときは本当にごめんな」と謝ったんです

――13年以上共演するなかで育まれてきた関係性がお話からも伝わってきて素敵です。

岡本

僕のなかで福山さんって、一番言語化されている役者さんというイメージがあります。これがすごく難しいことで、だからこそ『青エク』の現場でご一緒するなかで、僕も言語化して得た経験を、後進に伝えられたらいいなと思いながら臨んでいます。

福山

この13年で変わったものがあるとすれば、お互い着実に年齢を重ねているんだなということですよね(笑)。

岡本

福山さんは13年経て、めちゃめちゃ柔らかくなりました(笑)。

福山

だよね? さっき話した13年前の電車のなかでの会話も、全然和やかなものではなかったですから。ほぼ説教みたいな感じで。

佐藤

えーっ!? そうなの?

岡本

第1作目のときは、若さんと福山さんから厳しくご指導いただきました。

福山

というか、僕が後輩への接し方というものを、まだ学んでいない時期だったんですよね。何か助言を送るという経験もしたことがなかったので。後輩も対等な存在だと考えていたし、自分のなかに「こうするべき」という固い考えがあったんです。それで主人公の役割としては、1話1話積んでいくことが大切で、毎話お芝居をリセットするべきではない……といったことをどう伝えればいいか分からず、思ったとおりに言おう!と、ノブには相当厳しく言ってしまっていました。だから数年後、別作品の現場で会ったときに、「あのときは本当にごめんな。厳しく言いすぎてしまった」と謝りました。

岡本

あはは! そうでしたね。でも僕としては、全然ありがたかったです。

佐藤

ふたりはまんま燐と雪男なんだね。スゴいです。

岡本

当時の集合写真が公式サイトに残っているんですけど、福山さんと啓治さんに挟まれた僕を見てほしいです。キュッ……と縮こまっていて、当時の様子が分かると思います。

(ここでスタッフさんが見せてくれた写真を見て、爆笑する3人)

福山

俺と啓治さんがドンッ!て座っている間で、ノブが窮屈そうにしてる(笑)。これ、良い写真だねえ!

岡本

良い写真ですよね!? 今見るとさらに良いなって思います(笑)。

佐藤

良い思い出だね!

――最後に『雪ノ果篇』、そして来年放送を控える『終夜篇』に向けて、メッセージをお願いします!

佐藤

改めて『雪ノ果篇』では、シュラがメインとなるお話を描いていただけて、本当に嬉しいです。自分にできる精一杯で収録に臨んでいますので、監督たち制作チームのみなさんが作ってくださる世界観を、みなさんも楽しんでいただければと思います。個人的にはどんな音楽が付くのかな?というのも、楽しみにしているところです。ここからはより重たいお話に入っていき、もしかすると観ていてめげそうになるときもあるかもしれないのですが、この先続いていく物語として大切なところですので、引き続きご視聴いただけたらと思います。よろしくお願いします!

福山

『京都不浄王篇』のときに「続きができたらいいね」とみんなで話してから7年を経て、『島根啓明結社篇』、そして『雪ノ果篇』まで来ることができました。映像も我々のお芝居も、恐らくご期待に応えられるものを、みんなでお届けできていると自負しております。これまでも『青エク』を応援してくださっている方々は、お待たせしましたということで、どっしり構えてご覧ください。また今作から興味を持ってくださったという方は、原作もアニメも今が追いつくのにちょうど良いタイミングです。年明けからは『終夜篇』が始まりますので、来るなら今!ということをお伝えしておきます。もちろんどのタイミングでも『青エク』を楽しんでいただけるのは大歓迎ですので、奥村兄弟と彼らの周りの人々の物語に触れていただけたら幸いです。

岡本

先ほどもお話に挙がりましたが、『青エク』は原作の加藤先生が一体どんな経験をしたら、これだけの家族や人間関係を描けるのだろう?というくらい、ドラマ性の高い作品だと思っています。自分にも当てはまるなと感じる要素がありますし、それを受けてどう生きようか?という指標にもなる作品です。奥村兄弟が主人公ではあるものの、シュラがメインとなる『雪ノ果篇』など、群像劇的側面もあって、じゃあ次の『終夜篇』は誰が主人公になるんだ?というところで、いろんなキャラクターにスポットが当たっていきます。一人ひとりのバックボーンもしっかり描かれ、これほどまでに重厚な物語は、なかなかないんじゃないかなと感じます。『終夜篇』からでも楽しめると思いますし、ここからもう一度シリーズを遡って楽しむのも良いですし、どこから入っても『青エク』は楽しいので、ぜひご視聴いただけたら嬉しいです。そういえば『終夜篇』の英語タイトルは『The Blue Night Saga』だそうで、直訳すると「青い夜篇」みたいになるのがまた素敵だなと思ったんですよね。今年7月にロサンゼルスで行われた『Anime Expo 2024』でも、『青エク』の海外人気はバッチリで、ファンのみなさんスゴい熱気でした!

福山

海外だと悪魔の捉え方も日本とは違うだろうから、どうなんだろう?と思っていたけど、受け止められているんだね?

佐藤

嬉しいですね!

岡本

はい! 何ならエクソシスト文化もある海外のほうが、悪魔ってより身近なのかもしれません。世界に負けないよう、日本でもまだまだ『青エク』を楽しんでいただき、盛り上げていけたらと思います。また3DアクションRPG『オルタナヴェルト -青の祓魔師 外伝-』も、リリースを楽しみにお待ちください! これからも『青エク』をよろしくお願いいたします!