VOL.3 奥村 燐役・岡本信彦 & 奥村雪男役・福山 潤
オフィシャルインタビュー

TEXT=鈴木 杏(ツヅリア)

『青森篇』だからこそ見られる、兄弟のやりとり

――第3話からは原作の『青森・八郎太郎篇』にあたるエピソードに突入し、奥村兄弟がふたりきりの任務へと向かいます。旅館での一幕をはじめ、兄弟水入らずなこのエピソードを演じた感想から聞かせてください。

福山

水入らずだったね。お湯は入っちゃったけど。

岡本

(笑)。楽しかったです。雪男があそこまでコミカルにのってくれるというか、ふたりの仲を勘違いする旅館の女将さんを正そうとするあまり、感情が出てしまっていて。あの女将さんだからこそ引き出せたんだろうなと、さすがです!という気持ちでした(笑)。あのシーン自体は以前『ジャンプフェスタ』で生アフレコをやらせていただいていたのですが、アニメで改めてお芝居するとなると、また違った面白さがありました。

福山

それにしても、湯船に浸かりながらのくだりは、地獄だったな。「お前もしえみが好きなのか!?」とか言われて、あれは風呂から出たくなるよ(笑)。兄弟であんな話、絶対したくない。

岡本

なんちゅー話をしてるんだという感じでしたよね(笑)。あの掛け合い含め、『青森・八郎太郎篇』は、兄弟での会話が多かったなという印象です。

福山

『島根啓明結社篇』では、ほぼ話していなかったし。

岡本

ここから八郎太郎との戦いでも、連携を見せますしね。

福山

あとは罵詈雑言ね?

岡本

それから、このあと出てくる雪男の“パワーワード”も(笑)。夜寝ているのか起きているのか分からない雪男に、燐が話しかけるシーンも良かったです。

福山

あれ好きだなー! 雪男が苦虫を噛み潰したような顔をしていて。燐とは軸が違いすぎるのが、よく見えました。

岡本

兄弟なのに、考えていることは全然違うんですよね。

シュラは『青エク』でも、一番意外性があった人かもしれません

――『青森・八郎太郎篇』はシュラの物語がメインとなるエピソードです。今回改めて感じた彼女の魅力は?

福山

元々達観している人だなとは思っていたんです。享楽的な感じもしますし。とはいえ何かを諦めている人には見えないながらも、どこか軸足がない印象もあって。言ってしまうと、彼女の行動原理には、獅郎しかないんですよね。唯一獅郎にだけはこだわっていて、“獅郎から頼まれたからやってます”と、彼のことを重視する人だったので、今回の物語でその人となりがなるほどねと腑に落ちました。

岡本

そうですね。第1作目で初めて出てきたときから、何か秘密を知っていそうだけど、本当のところはどんな人なんだろう?とは思っていました。雪男とはすでに若干関係性を持っているようだし、燐にとっては師匠でありお姉ちゃん的存在でもあるわけですけど、基本的にはお酒を飲みながら、享楽的に過ごしている人というイメージでした。それが今回、実は決められた運命を課せられ、輪廻のなかの歯車的に生きていたことが分かって、個人的には衝撃を受けました。単なる享楽的な人といった表層の性格付けではなく、もっともっと深いところにあるものから反映されたキャラクター像があったんだなと。『青エク』のなかでも、一番意外性があったキャラクターだった気がします。

――佐藤利奈さんがシュラを演じることでの魅力という意味ではいかがでしょう?

福山

恐らく原作だけを読んでいると、もっと傍若無人だったりサバサバした感じで、どちらかと言うとヤンキー姉ちゃんなイメージを持たれがちだと思うんです。実際、八郎太郎とのエピソードなんかを聞くと、そういう人だったのが分かりますし。だからこうした過去がまだ明かされていなかった初期の段階で、佐藤利奈氏がその部分をお芝居で表現されていたのが、見事だなと。彼女が演じるシュラは上品ともまた少し違って、ただ、とにかく下品ではないんですよ。それでいてどこか少年性も感じつつ、でもちゃんと女性であることも感じさせてくれる。すごく難しくて曖昧な人物像を、見事に突くお芝居だと思います。今回のシリーズではそんな佐藤氏がシュラを演じることでの威力が、遺憾無く発揮されているのを感じました。

岡本

嫌味のない人という印象を受けます。原作を読んだ段階だと、いわゆる少年漫画の主人公の性格をそのまま持った女の子であり、かつ新橋にいるおじさん的なイメージもあったんです。でも、佐藤さんのシュラと接していると決してそれを感じさせず、むしろミステリアスさまである気がします。それってセクシーさにも繋がる部分で、でも喋っているときにはそこまでそれを醸し出さないんですよね。加えて自分たちを見守ってくれ、後ろからそっと成長を促してくれるような、優しい人。一方で、ある意味での空虚さも感じさせられる気がします。

脳直でパッションの燐と、「3年ある」と考え動く雪男

――「アタシも三十路で死ぬのさ」「ずっと覚悟してきたし、大丈夫だ」「お前たちは気にすんな」と語る彼女に、燐は「あきらめんなよ!!」「俺はあきらめねーからな!!?」と訴え続ける姿が見られました。

岡本

やっぱり燐は、パッションの人だなと。綺麗事を言っているというよりも、思ったことをそのまま脳直で、その言葉どおりの意味で言っているんです。それに周りも元気付けられたり、燐自身力が漲ってきたりするタイプ。ただそれだけでなく、改めて振り返って考えを巡らせてみたりすることもあるので、個人的にはそこが燐の難しいポイントでもあり、彼に人間らしさを感じる部分でもあります。明確な答えはあれど、本当にそうか?と自問自答してみたり、人との関わりのなかで「そういう意見もあるのか!」とちゃんと受け止められる人だと思います。

福山

「あきらめねーからな!!?」と脳直で言う美点もありつつ、実際にじゃあどうするかという仔細は語れないのが、燐なんですよ(笑)。

岡本

そうなんです……(笑)。

福山

だから良いんですよね、燐は。それを喋れたら嘘になっちゃいますから。再三話してきたことですが、やはりバカには常人を遥かに超える行動力があって、燐の場合、とりあえず伝える!というスタンスが、ここでもよく表れていたと思います。雪男は逆で、言葉ではなく行動を起こすことで表現しようとするタイプなので。

――雪男は「あと3年の命って事ですか!?」と動揺は見せつつ、燐を制し、八郎太郎の再生能力が心に引っ掛かっている様子も窺えました。

福山

多分、三十路で死ぬと聞いて、「まああと3年あるか……」という考えはあったのだと思います。今すぐ死ぬとなったら話は別ですけど、3年あるなら変えようと思えば人は変えられますし、状況も変わるでしょうから。だから今重要なのは、本人の考えを変えることではなかろう、というところがあるのだろうなと。シュラは諦めようとしているので、それに関してはなんとかしようという想いもあったでしょうけど。このシーンでは八郎太郎のことも含め、いろんなことを同時に考えていたと思います。

岡本

燐は感情に素直な人なので、3年と聞いたら「そんな運命嫌だ!」「そんなの許せない!」「俺がなんとかする!」になるんです。でも雪男は、一つひとつの事柄を分析しようとしている印象を受けました。個人的には、それって怖くも感じるんですけど……。燐としては、雪男は頭が良いし、自分には考え付かないことを考えているのかもな……と思っていたのかもしれません。ただどちらかと言えば、「雪男はどう思ってるんだろう?」というところで、思考は終わっていた気はしますが。

福山

もちろん雪男も、気持ちとしては嫌ですよ。3年の命と聞いて、動揺しているのも嘘ではないと思います。ただどうあっても3年なのであれば、それまでに蹴りを付けなければというところで、解決に動いたまでなんでしょう。

悩む雪男が、どんどん燐から離れていく感覚があるんです

――八郎太郎のキャラクター像や彼の運命については、どう感じていましたか?

岡本

可哀想だなと思ってしまいました。悠久の時のなか、愛を知らずに生きてきて、愛を知りたくて、ずっとひとりで寂しくて……。再生能力があるからこその孤独があると考えると、不老不死は良いことだけでなく、それはそれでキツいものがあるんだなと感じます。僕は不老不死になってみたかった…というか、ぶっちゃけ今でももしなれるのであれば、一度は試してみたい!という気持ちがあるのですが。八郎太郎は「嫌だ!」「自分のものになってほしい!」みたいに、ちょっと子供っぽい言い方をする印象もあって、助けてあげたいな、どこか良い着地点はないのかな?という気にさせられます。仲間になってくれたら心強いのにな……とも思いました。

福山

僕は可哀想ではなく、哀れだなと思いましたし、まったく同情もできませんでした。子供っぽいとありましたけど、死なないとなると、成長する必要がないんですよね。そのなかで生き方や態度を改めることも、誰かと共存する道も、いくらでも探して取り組めたはずなのに、本人がそうしなかったのは“自分が強者だから”という考えの表れじゃないですか。だから同情の余地が一切ないなと。

岡本

なるほど、確かにその考えも一理ありますね。

――最後に、ますます盛り上がりを見せる『青森・八郎太郎篇』について、改めて楽しみにしてほしいところを教えてください。

岡本

やはり序盤の奥村兄弟ふたり旅は、面白いポイントだと思います。その後はバトルメインで、物語はシュラが軸となりますが、彼女を通じて奥村兄弟の母親の話も少し出てきます。ただ、イベントなどでも何度か話していることですが、雪男がだんだん闇落ちしていく段階でもあって……。確かに一緒に戦っていて、その点では気持ち良さがあるはずなのに、キービジュアルを見ても感じるように、悩む雪男がどんどん燐から離れていく感覚があるんです。そこも物語としては、楽しんでいただきたい部分かなと思います。何より一番楽しい“パワーワード”にも、どうぞご期待ください!

福山

いやー、まさかまさか令和のこの時代にアレが言えるとはね!

岡本

なくなるんじゃないか?って、言っていましたもんね?

福山

“パワーワード”そのものよりも、その後のセリフに問題があるから、それが僕はそっちが心配だったんです。あとは高橋(英則)さん演じる八郎太郎の青森弁も、アニメならではとしてお楽しみください。小形 満さんと斉藤千恵子さんによる方言指導がガッツリ入り、OKが出るまで何度もトライされていました。僕らはその間、ブース内で「ノイズを立てちゃいけない…!」と見守っていたんですけど。

岡本

ニコニコしながら見ていました!

福山

僕は青森弁の正しい発音が分かりませんが、そもそも方言ってディープになるほど分からなくなるものなんですよね。それなのに“恐らくこういうことを言っているんだろう”と不思議と気持ちで伝わってくるニュアンスが込められていて、大変良い形に落ち着いていました。そんなところも含め、『青森・八郎太郎篇』は楽しみにしていてほしいところがいっぱいです。引き続きご視聴お願いいたします。