VOL.12 奥村 燐役・岡本信彦 & 奥村雪男役・福山 潤
オフィシャルインタビュー
TEXT=鈴木 杏(ツヅリア)
燐を見て思ったのは「ちゃんと話しておかないの?」「知っておいたほうがよくない?」
―――おふたりの対談2回目となる今回は、『雪ノ果篇』後半のお話について伺っていければと思います。
第8話では祓魔塾のみんなで、クリスマスも兼ねた誕生日パーティを開きましたね。束の間の優しい『青エク』エピソードだったと思います。
そうですね。ただ第8話というと、僕はやっぱりどうしてもラストが印象的です。シュラから自分たちの母親の話を聞いて。その後の雪男との会話で、燐が「俺はもう十分だ」と言うのに対し、出生の秘密を知りたい雪男からの「ビビリはどっちだ!」というセリフも含め、雪男の一番の感情の爆発が見られた気がして、衝撃を受けました。若干、燐のほうが逃げているようにも見えるというか。
―――福山さんもひとつ前のソロインタビューで、踏み込んでいないのは雪男じゃなくて燐のほうだとおっしゃっていました。
燐を演じているぶんには全然そんな気持ちはないんですけど、俯瞰で見たときに原作を読みながら、「そこちゃんと話しておかないの?別に喋ればいいじゃん、どうした?」と思ってしまいました。今回演じるうえでも最初は燐が逃げているのかな?と、ドギマギしたお芝居にしようとしていたんです。でもディレクションで「どちらかというと、燐は過去よりも未来が見たくて、そのすれ違いがさらに雪男を苛立たせている」といただき、なるほどなと。だからここでの燐は、雪男の剣幕にはドギマギしつつ、過去はあんまり関係なくない?と脳直でパッと答えを出せていて、それに雪男は「なんでそんなふうにできるんだ?」と、さらにイライラポイントが加算されている場面かなと捉えました。
「もう済んだことじゃない」は、恋人との喧嘩だったら絶対言っちゃダメなワードだよね(笑)。自覚はないにしても、実際客観的には逃げているんだと思うんですよ。燐が未来を見つめられているのも事実だとは思いますが、それはイコール過去を乗り越えたということではないので。構造としては、過去を清算しない限り前を向けない人間と、清算しなくたって前は向けるじゃないかという人間、というふたりなのだと考えています。
本当に燐と雪男は正反対ですよね。僕個人としては雪男の心境は理解できますし、ほとんどの人がそうじゃないかと思います。だからさっきも言いましたけど、「知れるんだったら知っておいたほうがよくない?」と思わずツッコミそうになりました。むしろ、知って損することって何?まである。
おー……。俺個人としては、逆なんだよね。知らなくていいって思うタイプ。
そうなんですか!?別に知ったとしても、それはそれで楽しそうじゃないですか?
そうかもしれないけど、“知らなきゃいけない”が自分のなかにない。
あー確かに、それは僕もそうです。知って損はないかな?くらいで。
知ったところで……という考えもあるし、知らなきゃ前に進めないという考えがない、という感じかな。
―――知らないこと自体が、気にかかったりはしませんか?
知らないことによって、うまくいかないなという何かが具体的にあるならば話は別ですが、知らなくても生きていられているならば特には。つまりそれって、自分が本当に興味のないことだと思うんですよね。
なるほどなるほど。僕は好奇心が勝っちゃうんです。例えば僕、お酒が弱いんですけど、翌朝記憶がなかったとしたら、「僕は昨日、何をしましたか……!?」とすごく気になっちゃう。「全然大丈夫だったよ!!……うん、大丈夫だったから……」とか言われた日には、「ちょ、ちょっと何があったんですか!?」と知りたくなると思います。好奇心的にも。
僕は知ったところで知った以上の何かはない、と思っちゃう。
合理的だ(笑)。
だって過去を変えることもできなければ、その時間を埋めることもできないじゃない?だからそれを知らないと前に進めない状況でない以上、知らないほうが精神衛生上良くない?と思うんです。
なるほど、面白い!そう考えると、自分はメンタル的には鈍感なのかもしれないです。
例えば恋人の過去とかも、どうでもいいタイプなんだよね。誰と付き合っていたとかどういう恋愛をしてきたとか、本当に興味がない。
奥村兄弟の母・ユリは、人タラシでタチが悪い!
――第8話の回想シーンには、ふたりの母、ユリ・エギンが登場しています。
いや~……。これは語弊がある話かもしれないんですけど、第1作目でユリを演じていた林原めぐみさんよりも、今の俺のほうが年上になっちゃったんですよね(笑)。そのショックが、個人的にはデカい!
そうなんですか!?(岡本さん、即座に調べて)本当だ!そっか、13年経つとそんなことも出てくるんですね。
林原さん自身がお持ちの凄みはそのまんまというのはもちろんとして、僕はこれが一番ショックでした(笑)。
――『青エク』が長年続いてきたからこそですね!改めてユリの印象はいかがですか?
人タラシ感がありました。純粋にめちゃめちゃ可愛いなと思いましたし、そのなかに掴みどころのなさもあった気がして。燐が持つ前を向く力、エネルギーと、雪男が持つ繊細さ、その両方を兼ね備えているように感じます。そしてそれをリアルな音色で林原さんが演じられているのが、スゴいなと。むしろ若干、怖いまであるなって。
僕はタチが悪い女だなと(笑)。
あれは振り回されちゃうよなって思いました(笑)。
ミステリアステロリストだよ。
(笑)。
―――第9話では柔造&蝮の結婚式が行われ、勝呂たち京都組の家族模様も見られました。勝呂家や志摩家、また勝呂&志摩&子猫丸の京都組の関係性は、奥村家であるおふたりから見ていかがでしたか?
この回はみんながすごく幸せそうで賑やかでしたし、これまでの『青エク』の家族観的にもあまり見たことがない感じだったので、燐目線としては純粋に新しいものが見られて学びを得ている感覚だったかもしれません。「楽しそうでいいな」というのは若干あったかもしれないですが、別ジャンルすぎて自分たちがああなれるかというと、それは分からないという。
子猫丸の人気たるやね!あいつは成人したら、とんでもないぞ?
あはは!やり手ですよね?
侮れないね。ダメですよ、あれはナチュラルボーンで悪い男だよ?警鐘を鳴らしておかないと!
しかも「CV梶裕貴」ですから。人気がないわけがないですよね。
ダメだよダメだよ。彼は彼で、タチの悪い男になりまっせ。僕個人としては、ほかの家族を楽しそうだなと思う反面、絶対自分には合わないなとも思います(笑)。親戚がいることの良さももちろんありつつ、うっとうしいなと感じることもあるがゆえ、ああやってコミュニケーション能力という名の処世術が身に付いていくんだな……というのを、まざまざと見せられたエピソードでした。特に自分に何があったとかではないんですけど!明るく振る舞いながら、隣の部屋ではおっさま(勝呂父の達磨)と剛造(志摩家の三男)が密談を行っているあたり、大家族ってこういう面もあるよねという印象です。
―――雪男は第9話で勝呂を脅したり、第11話ではメフィストに銃を向けたり、今までにない姿を見せています。岡本さんはそんな彼をどうご覧になっていましたか?
本人も言っていましたけど、燐としてはどうしたんだろう?と心配ですし、止めなくちゃという気持ちもあると思います。僕としてはとりあえず原作で読んだときは衝撃で、いつかやるとは思っていたけど遂にやったか……!というふうに、まんまと感じさせられてしまった場面でした。勝呂を銃で脅したシーンとか、こんな人だったっけ?と勝呂も言うほど、悪魔的というか、今までの雪男ではないことは、誰の目にも明らかだったかなと。ただ個人的にあの場面は、その後の志摩が好きなんです。「ええ加減にせぇよ」と錫杖をバッと出して、雪男を制していて。二重スパイながらも、やっぱり勝呂のことを守るよね!という友情を感じてしまいました。だから自分が見たかったシーンが見られたという意味で、雪男ありがとうございます!という気持ちです(笑)。あの絆が垣間見られたのは、雪男のおかげです。
“共通言語”がないふたり。最早燐は、雪男の話が理解できていないと思います
――最終話では雪男が燐を撃ち、遂にふたりは道を違えてしまいました。
燐としてはやっぱりショックです。八郎太郎との戦いで栄養剤を撃たれていたこともフックとなって、混乱状態から痛みや止まらない血を感じはじめ、何が起こったかを徐々に理解していき、最後は直情的になってブチギレた……という流れでした。怒りも少しあったと思います。実の兄を撃つなんて!ふたりきりの家族なのに!!と。それで燐のなかでも、もう無理なんだという、諦めに近い感情が湧いた気がしました。ただここで、「対話じゃ無理なのかも……だったら力で行こう!」と脳直な行動を起こすのが、本当に燐らしいんですけど(笑)。僕も最初原作を読んだときは「なんで撃ったんだろう?」がまず頭に浮かびましたし、演じながら悲痛な心境でした。それこそ明るく楽しかった頃の『青エク』に戻れたらいいのにな……と思いました。
八郎太郎のところで1度練習していますから、雪男としては落ち着いていましたよね。その先の道行きも考えたうえで行動していますし。なんて言うんでしょう……やはり雪男のほうは、ちゃんと本心は言っていますから。
―――それでも実の兄を撃って、万が一にも死んでしまうかも……とは、雪男は思わなかったのでしょうか?
思ったとは思うんですけど、それはそれ、じゃないですかね。ただ心臓さえ潰れなければ、死なないということは分かっていたので。だから八郎太郎のところで、撃てるかどうかを練習していたのだと思います。理屈は分かっているから、あとは気持ちの面で、実際に兄を撃てるかどうか……という。
―――雪男が育ての親である獅郎の真実も知り、実験体として養成された人間に心があったのかと疑問視したり、燐に対しては自分のことを「僕は弱い出来損ないだった」「きっと目障りだったんじゃないかな」と零す姿は、胸に刺さりました。
認めたくはないけれど、とりあえず悪い方向で考えてしまうことってあるじゃないですか。例えば「好き」と言われても、「それってどの好きなんだろう?」と思ってしまうとか。雪男はその極端な例だと思っています。「お前はジジイ(神父)や俺の自慢だったんだ!!」「誤解してんだ!」なんて言われたところで、いやいやだって事実は違うじゃん、神父(とう)さんだって人じゃなかったじゃん……。そうやって事実を並べ立てて、自分の経験を否定したくなるというんですかね。現実逃避ではなくて、受け入れたいのだけど受け入れられないという、グラグラな状態です。だからここは、自分を納得させてくれる確証が欲しいという気持ちの裏返しなんだと捉えています。
―――岡本さんは燐を演じながら、いくら言葉を掛けても雪男に届かないことについて、どんなお気持ちでしたか?
ここに関しては、このくらいで届くのであれば、前からこんなことにはなっていないんじゃない?という感じは、どうしてもしちゃいますよね(笑)。この兄弟は、ずっとすれ違ってきていましたし。この時点の燐を見ると、最早雪男が何を言っているのか理解できていないのだろうなと思うんです。会話をしていても、共通言語がない感じがして。違う世界線で生きている人というか、同じ場所にいないから、そもそも歩み寄れるポイントなんてどこにあるの?というか。まったくのお門違いで話が通じない感じです。だから燐はパッションをぶつける方法に出るんですけど、それもこっちが100で行って、普通の人なら100で返してくれるのに、雪男からは全然返ってこないな……?みたいな(笑)。投げても投げても、んん……!?って。
論法が違いますからね(笑)。「なんか分かれよ!」「その“なんか”を教えろって言ってるんだよ!」「“なんか”は“なんか”だよ!」が、この兄弟なんです。
―――その後、魔神の力に飲まれた燐が登場し、燐との対話が描かれました。
あの燐は、“燐の形をした、楽しくてしょうがない概念的な何か”として演じさせていただきました。顔は燐ですけど燐ではないので、その違和感はありつつ、お芝居という意味では楽しかったです。一生懸命作った砂のお城を倒したら、どんな気持ちになるんだろう?みたいな、破壊によって悪戯心や知的好奇心が満たされていく感覚でした。役者的にも楽しいな面白いな!が先行するお芝居ができる役って、なかなかない気もして、演じながら高揚感を覚えていたと思います。燐にとっては「これは自分から出たものなのか……?」と、ある種恐怖の対象でしたし、ここでひとつ自分を乗り越える姿も描かれていたように感じました。
僕らふたりも、完全に真逆なんです
――おふたりが13年『青エク』で共演してきたなかで、お相手と役柄が重なるなと感じる部分はありますか?
今日福山さんが語ってくださった雪男が持つメンタリティ的な部分は、僕が見えていないだけかもしれませんけど、福山さんご自身とは重ならないです。例えば福山さんは、聞いたことには全部答えてくれるんです。そのとき持っている自分の答えをボン!と、もう0コンマ1秒とかのスピードで。
それこそ脳直だよ(笑)。
いえいえ!(笑)対して雪男は答えてはくれそうですけど、真に迫ったことを言うというよりは、予想と違う言葉を返してきそうな気がします。だから内面的にはやはり違うかなという印象です。でも当たり前ですが、口調とか固さ、IQが高そうな雰囲気も含めて……。
“高そうな”がいいね(笑)。あくまで“そう”。
いやいやいや!雪男は最初から僕のなかでは、福山さん以外の声が想像できないくらい、ぴったりな役柄だと思っています。雪男からそのまま声がしている、という感じがすごく強いんです。しかも最近では、どんどん闇堕ちしていく雪男を楽しそうに演じていらっしゃるのも、見ていていいなあ!と感じます。その姿勢が素敵だなって。
ふふふふふ(笑)。
多分福山さんは、こういう人が好きなんだろうな、雪男みたいな人を演じるのが好きなんだろうな!と思いますし、役者としてもそれは素晴らしいことだと思います。そこは13年前のアニメ第1話のときから今まで、変わらないところです。
ノブと燐が重なるところは、食に対して一家言あるところですね!
それはそうかも~(笑)。
今までいろんな人を見てきましたけど、食に対してここまでこだわりを持っている人は、見たことがないです。美食家とかではないんですよ。ただ、食への欲求がものスゴいんです。燐は作る側というのもあるかもしれませんけど、これは重要な共通点だと思いますし、食に関してはノブも脳直だなと感じます。
確かに。欲求そのままかもしれません。行けない店とか考えたくないです。どうやったら行けるんだろう!?絶対食べたいな!!ってなります。
例えば「この世で一番美味いもの」って聞いたら、食べたくなる?
食べたいですねー!!どんなものか知りたくなります。ただ僕、世界三大料理とされるフランス料理で、ビビったことがあるんです。三つ星レストランの初手に出てきたのが、生牡蠣のチョコレートソース掛けで……。
お~う……。
最初信じられなくて!牡蠣は海のミルクとも言われるから、ミルクチョコレート……ってこと……?と思いながら食べたんですけど、やっぱり僕にはまだ難しかったです。
わー良かった良かった。「とんでもないイノベーションだ!」とか、感動したのかと思った(笑)。
レベルが高すぎたというか、僕のレベルがまだそこに至っていなかったです(笑)。
僕は逆で、一番美味いとされるものがあったとしても、知りたくないんですよ。だって知ったところで、おいそれと食べられるものではない可能性があるじゃないですか。それに自分のなかでの美味いものは、もっと安くて手軽なものだったりするので。きっと存在はするんでしょうけど、料理って食べる人の素養にも起因してしまうものですから、僕はそこまで情熱をかけられないんです。だからその欲求が強いノブは、スゴいなと思います。旅行に対してもそうじゃない?
確かにそうかもしれない!全力で遊びたい派です(笑)。
僕ら完全に真逆なんですよ。
―――年明けから放送開始となる次クール『終夜篇』を見据えて、最後にメッセージをお願いします!
まずは『雪ノ果篇』であんなふうに別れてしまった雪男と燐から、『終夜篇』はどのように物語が動いていくのか、ご注目ください。裏話としては、実は雪男の出番がない回もどうしても見学に行きたいと、許可までいただいていたんですよ。
そうだったんですね!?
音響監督の(若林和弘こと)若さんが「来ていいよ」って言うから、「じゃあ行きます!」と言っていたんです。それなのに結局スケジュールがものの見事にハマらなくて。だから僕もみなさんと一緒に、オンエアーを楽しみにしたいと思います。
それで言うと、獅郎やユリがメインの話数では燐も出番がない話数があったりして、だから視聴者の方々とほぼ同じ目線で、次の『終夜篇』が楽しめるなと思っています。そんな『終夜篇』は、『青エク』シリーズのなかでも一番キーとなるところです。燐と雪男の出生の秘密、ふたりを育てた獅郎とは“何”なのか、人間の住む「物質界(アッシャー)」 と悪魔が住む「虚無界(ゲヘナ)」とは?この世界とは……?そうした作品の大部分の謎を、描いてくれるシーズンになります。TVアニメ『青エク』をずっと楽しんできてくださった方は、絶対に楽しめる物語ですので、ご期待いただけたら嬉しいです!引き続きご視聴よろしくお願いいたします!