VOL.10 奥村雪男役・福山 潤 & 杜山しえみ役・花澤香菜
オフィシャルインタビュー
TEXT=鈴木 杏(ツヅリア)
雪ちゃんが可哀想すぎて、観ていられなかったです
―――『雪ノ果篇』では燐がしえみに告白したり失恋したり、対するしえみも恋愛を意識し始めたりと、ふたりの恋模様が展開しています。福山さんは、そんなふたりをどうご覧になっていますか?
お前らは良いよなあ!と(笑)。
いや、そうですよねえ(笑)。
雪男自身、「僕は独りだ」と話していますが、実際彼は周りと関わらず、ずっとひとり悶々としているので。人が大変なときに君たちは良いよね?という気持ちです。ただいち視聴者的には、ふたりの恋愛事情は今作において気を抜ける部分でもありますから、微笑ましく観ていました。
物語的にはどんどん重たくなっていくぶん、ああいう掛け合いがないと……というところはありますよね。
そうそう。多分アレがないと、キツくなっちゃうと思うんだよね。加えて最近のラブコメでは、「好きってなんだろう?」「恋愛の好きと友達の好きはどう違うの?」なんて、今の子たちには当たり前のことすぎて、そんなの言わないじゃないですか。だから改めてそこを描いているのが新鮮でした。
燐としえみの、“純”と“純”だからこそできるお話ですよね。
―――一方『雪ノ果篇』での雪男を、花澤さんはどのようにご覧になっていますか?
今期の雪ちゃんは本当に可哀想すぎて、観ていられなかったです。
あはは! じわじわ心が崩壊していく様が描かれているからね。
そうなんですよ! これまで見たことのない顔をしはじめていくので……。しえみとしては、やっぱり心配でしたね。燐も言っていましたけど、何を考えているのかが分からない、というのが一番大きくて。ただそれと反比例して、福山さんは輝きを増していらっしゃいました。
ええ、楽しかったですねえ!
それが伝わってきました(笑)。
―――雪男は燐と違って、自分たちの出生について知りたいという気持ちが強いのが窺えます。
雪ちゃんにとってはそこが一番知りたいことだし、大事なことだったんだなと思いました。「なんで燐と自分はこうも違うんだろう?」というところにも、繋がっているような感じがします。その気持ち自体はよく分かるし、総じてライトニングのやり方が悪いと思います!
あの人が一番ヤバいですからね。いろんな人に詰め腹を切らせたりしながら、自分ひとり自由にやっていますもん。
本当ですよね? 早く分かっていることを教えてあげたらいいのに!って思います。
誰も悪意がないだけに、いたたまれないというか……
――第10話で、雪男はしえみの家(祓魔屋)を訪ねました。無意識だったらしいこの行動は、どのように解釈されましたか?
雪男が『島根啓明結社篇』で、しえみといると癒されると言っていたのは、嘘じゃないと思うんですよ。雪男はこれまで、燐に勝たなきゃ、燐を頼りたくない、燐を守らなきゃ……と、常に燐より自分を下に置いて生きてきた人でした。そんな自分のことを慕い、頼ってくれたのがしえみで。だから自分でも受け入れられない自分を認めてくれる相手であるしえみと、話したくなった、癒されたかったという気持ちからくる、ストレートな行動だったと思います。
本当に、せっかく来てくれたんですけどね……。
いろいろ知られていなければ、ただ癒されて帰れたかもしれないのに、お互い歩み寄ろうとしてしまったから。
もちろんしえみとしては、訪ねてきてくれたのは嬉しかったと思います。二年前にも「お家に帰りたくないの?」と聞いたことがあったよね!と話し終わる前に、「帰りたくない」と言い出すものだから、えええ!?と驚きはしましたけど。
ラブコメの定石でいったら、立場が逆なんですよね。
雪ちゃんがヒロインポジションになっていますもんね!? 「雪ちゃん大丈夫かな?」という心配を積み重ねてきていたので、前のようにはいかずとも何か自分も力になりたい!と、精一杯寄り添おうとした結果、ああなってしまって。
誰も悪意がないだけに、いたたまれないというか。
―――「今の私はあの時とは違う…!」「力になるんだ…!!」という前振りがあったからこそ、余計にその後の展開には辛いものがありました。
むしろ雪男は、“今まで”を求めていたんだ……!
しえみが成長しちゃったから……。
人は成長するものですからね。
―――しえみが掛けた「雪ちゃんはたまにはみっともなくてもいいと思う」「ずっと頑張ってきたもん」といった言葉は、とても素敵でしたよね。
そうなんです。本当、あそこまでは良かったのに! でも「気付いたら独りぼっちで もうまともな家族も 友達の一人もいないんです」なんて言われたら、「そんなことないよ!」と言っちゃいますよね。「私は雪ちゃんの友達だよ!」と伝えているように、友達だと思っている自分のことまで、否定されちゃったような気持ちになってしまっているのも、辛いところでした。
あの場面での「燐」は、絶対NGな“着火点”
――燐が心配していると言われた途端、「誰が頼んだ!!」と、怒りを露わにしてしまう雪男が印象的です。
条件反射ですよね。ひとつの着火点で、点在するものすべてが繋がってしまうことって、あるじゃないですか。ここではその着火点が、「燐」というワードだったんだと思います。「僕は独りだ」と、本当の自分を曝け出そうとしていたところに、拒絶の対象が飛び込んできてしまった。その瞬間、自分が気遣われていること、哀れまれていること、もしくは燐という存在自体を思い出させられたこと……。そういう考えなくても良かったはずのことが、同時にバーン!と出てきてしまい、その結果ヒューズが飛んでしまったんでしょう。だからあの場面での「燐」は、絶対に言ってはいけないワードだったんです。それまで抑え続けてきた反動で、本人としてもどうしようもなかったんだと思います。
コップの水が溢れてしまうみたいな。
そうですね。表面張力で留まっていたものが。
しえみとしては、本当にふたりのことを心配しているし、燐と雪ちゃんはセットだから、自然と「燐」と言ってしまったんですけど。でも言わなければ良かったな……と。
恐らく燐は人から理解してほしいタイプなのに対して、雪男は理解してほしくないタイプでしょうからね。自分のなかにあるこだわりや闇の部分って、彼にとってはコンプレックスで、人には知られたくないんだと思います。
実際、何にも話してくれませんもんね。
雪男自身、自分で自分を認められていませんから。雪男は、自分のコアとなるアイデンティティが“燐の双子の弟”になってしまっていて、自分の真ん中に在るのが自分ではなく燐だと思うんです。そういう経緯からも、どうしたってルーツにはこだわってしまうんでしょうね。
―――「私じゃ……やっぱりだめだった……! 燐!」と、涙するしえみも心に残った場面でした。
燐が雪ちゃんのことを大事に想っているのはもちろん知っているし、しえみ自身、この兄弟のことが好きなので。だからやっぱり「燐、ごめん……」という気持ちがあったんじゃないかなと思います。
―――このシーンの収録エピソードは何かありますか?
この回は僕が後から収録しているため、どんな掛け合いになっているのか、僕もオンエアーを楽しみにしているんです。
実は収録時、燐役の岡本(信彦)くんが、代わりに雪男をやってくれたんですよ。
えー!? 聴きたかったな、のぶの雪男!(笑)
音響監督の若林(和弘)さんに「兄さん、頼むよ」と言われて、やってくださって(笑)。掛け合ってみて、福山さんの雪ちゃんをよく見ているんだなという印象を受けました。私がやりやすいようにしてくださって、ありがたかったです。
名場面から考える“人に寄り添う”ことの難しさ
――その後雪男は「弱い人間だった」「もう 疲れた」と、自殺を試みます。
これまでも“危険な修業”と称される、自殺まがいのことをしてきましたけど。誤解のないようにお話ししたいのですが、人間ってそんな簡単にはできていないので、死ぬ気がない人が死のうとしても無理なんです。それがたとえ、物語のなかであっても。雪男は飛び降りもしていましたが、あれも本当は死にたくないという心情で、結局守られてしまっていました。銃の引き金に掛けた、たった一瞬の指先の力で死に踏み切るのだって、とんでもないエネルギーが必要だと思います。それを踏まえて、もしあれが自分に起因することであれば、多分ああはならなかっただろうと思います。けれど雪男は、燐に勝ちたい、守りたい、強くなりたい……と思いながら、一番無防備に接してくれるしえみという人に「自分の中の葛藤で やさしい人間を傷付ける」行いをしてしまった。つまり自分が掲げていたはずの行動理念や命題に反した行動を取るような、そんな受け入れがたい人間であることを、理解してしまったんですよね。だからあそこは「もう 疲れた」よりも、恐らく「強くはなれなかったな」という気持ちがメインにあったのだろうと捉えています。自分で自分を許せないだけじゃなく、逃げたかったと言う気持ちが大きいのだろうなと。
もうあそこは、来るところまで来ちゃったなあ……というか。ずっとその兆候はあったし、それこそ雪ちゃんのなかで繊細に積み重ねてきてしまったものがあるのですが。それでも、どうしてあげたら良かったんだろう……と考えてしまいます。
でもしえみは、最大限正しい行動を取っているから、しょうがないですよね。あれすらなければ、多分心を掬い上げられないところまで行ってしまっていた可能性もあると思います。
本当に“人に寄り添う”って、ものすごく難しいことだなと改めて感じます。
―――今の雪男に花澤さんから何か言葉を掛けられるとしたら、どんな言葉で寄り添いたいでしょうか?
難しいですね? 何も言わずに、温かいご飯を出すかもしれません。燐もずっとそこを気にしていましたから。
そうだよね。言葉でなんとかできる状態じゃないもんね。
―――改めて花澤さんは、しえみにとっての雪男とはどんな存在だと捉えていますか?
雪ちゃんには憧れもあると思いますし、燐も雪ちゃんも同じように、家族みたいな感覚でいるんじゃないかなと思っています。それも、ほかの人たちよりもう少し踏み込んだ存在なのかもな……?と、思っていたんじゃないのかなって。だから余計に第10話の出来事は、ショックというか。そもそも雪ちゃんって、燐みたいに明け透けに話してくれるわけでもなく、なんでも完璧にやってしまえるじゃないですか。でも多分無理しているんだろうなというのも、しえみは分かっているんですよね。「大丈夫かな?」とずっと彼を見てきたんだろうし、実際端々でそのことは分かるので。例えば第1話でも、心からの笑顔じゃないと、まず異変に気付いたのはしえみでしたもんね。
『島根啓明結社篇』のときも、家庭教師で来ておきながら、気もそぞろな様子に声を掛けてくれたこともありましたしね。
しえみは一晩で180度異なる、大きな決断をしました
――第7話で祓魔師になりたいと母に話したしえみは、その後第8話では祓魔師認定試験を辞退する決断をしています。
祓魔屋の家業を継いでほしいんだろうなとか、祓魔師になりたいということをお母さんにどう話したらいいだろう……と、しえみなりに悶々としてきて、友達に背中を押してもらい、とうとう頑張って自分の気持ちを打ち明けたんですけどね。お芝居としては、テストの際、それこそ嫁に行く!くらいの気持ちで頑張っている感じを出してみたのですが、「ここはそれよりも、すでに心を決めていて、キッパリ宣言する方向が良い」と、ディレクションをいただきました。ここまで強くお母さんに自分の意見を話したことって、きっとなかったでしょうから、そこまで彼女は腹を括っているんだなというのが伝わってきました。しかもこの先、しえみはさらに大きな決断をすることになります。たった一晩のうちに、相当いろんなことを考えたでしょうし、もしかしたら前のしえみちゃんだったら、誰かに相談したり、それこそどこかに逃げ出したりしていたかもしれません。でも仲間たちと共に戦ってきて、少しずつ強くなってきたことで、彼女も何かを背負える人になったのかしらと感じました。
自分で決め切れないまま、状況に流されてしまうと、その先良いことって起こらないと思うんです。自分で自分の結果を受け入れられないのは、一番良くないことですからね。その点しえみは、祓魔師になると自ら決断し、さらにその真逆となる祓魔師を諦めるという決断も、たった一日で下しました。籠から外に出た時間はまだ数カ月ながら、しっかりした人格形成が成されているのが分かります。そういった部分でも、今作のなかでも、特に重要な展開だったなと感じました。しえみがどんな大きなことを受け止め、自分で答えを出したのかは、この先明かされていくので引き続きご注目ください。
―――福山さんはしえみのどんなところが素敵だなと感じますか?
この年齢の少女らしい感覚ももちろんあるし、天然だったりといったキャラクター性もありますが、結局我はしっかり通すじゃないですか。それに周りから遅れているだとか、自分は何もできない、守られてばかりだとか、己の能力を下に見積もるタイプではあるけれど、人と関わるときは斜め後ろからではなく、必ず真正面に回ってぶつかっていきます。雪男のケースではタイミングが最悪でしたけど、出雲しかりアマイモンしかり、絶対正面から行くところは、まさに彼女の長所だなと。そうした人柄や、せかせかしていない雰囲気が、がっついている人たちからは大変魅力的に映るんだろうなと。
確かに出雲ちゃんからどれだけ拒否されても、「友達になろう!」とまっすぐ言える人ですもんね。
―――では花澤さんが思う雪男の魅力は?
雪ちゃんはカッコいいですよね。私元々、眼鏡キャラが好きなんです。
あはは!
すみません、見た目から入っちゃうんですけど(笑)。いち視聴者としては、内省的な部分も含めてとても魅力を感じます。自分とも少し重ねやすいというか、「人間だもん。そういうところもあるよね」と思います。
作中の人には弱い部分を見せようとしませんけど、読者及び視聴者にはダダ漏れですからね。『青エク』の誰よりも、雪男は弱いところを見せている!
そういうところを見ると、さらに好きになってしまうし、応援したくなっちゃいます。
のぶは人と人を繋いでくれる人。現場にいると安心できます
――ぜひおふたりから、燐の好きなところも伺いたいです。
やっぱりバカなところでしょうね! 僕の大好きな名言に「バカは常人の想像を超える行動力がある」というのがあって、燐はまさにそれです。彼としては考えていることがあるんでしょうけど、そこは大事じゃないというか。理屈で前に進めなくなった人がいるときには、それを取っ払ってしまい、「こうなるじゃん?」と見せつけるタイプじゃないですか。今は世の中的にもこうした作品内でも、みんなが頭の良い時代ですし、話し合いや熟考や検証もやはり重要ではあるのですが、それでも最終的な一手は行動の一歩から起こるものなので。燐の場合、考える前に行動してしまうという問題点もありますが。それでもバカであるというところは、少なくともこの作品においては変え難い美点だと思います。
私はしえみちゃんとの恋愛模様を見て、あんなふうに振られたのにその後もサッパリ接することができるなんて、素晴らしいな!と思いました。思春期の男の子だったら、絶対もじもじしたり避けてしまったり突っぱねちゃったりすると思うのに、いつもどおり喋ってくれるのが燐はスゴいなって。
そこもバカだから、失恋したけどこれで終わりとは、きっと思っていないんですよ。「来週とか、再来週あたりにもう1回告白してみたら、行けんじゃね!?」と思っていると思う(笑)。
そっか、めげてないんだ……! それはおバカですね(笑)。とにかく、変な照れがないのが良かったです。ただ「恋愛の好きと友達の好きはどう違うの?」と聞かれた際の説明は、本当に下手くそでしたけど。
やっぱり実態が伴っていないやつに、そういう話をさせてもねという(笑)。
―――そんな燐を演じる岡本さんの印象はいかがでしょう?
岡本くんは、いつ会ってもテンションが変わらないなって思います。
確かに。『青エク』ではもう13年の付き合いになりますけど、僕のなかでは第1作目の頃に比べて、だいぶ印象が変わりました。すごく大人になりましたね。彼を一言で例えると、これがクリティカルに当てはまるな!というのを、とある先輩からお聞きしたことがあるんですけど、「のぶくんは、サイレントクレイジーだからね!」と。
あはは!
ああー!と納得でした(笑)。燐とすごく被るというか、そこは彼が演じている燐だからこそという部分があるのだろうと思いますが。とにかくキツいことを言われても、普通に「はい!」と、まっすぐ言えてしまうんです。しかもそれが指摘を受け止めているのに、本当に聞いているのかな?と思わされる感じで、理解はしているんだけれど、理解しているふうには振る舞わないという、不思議さがあります。それから、好きなことにはまっすぐです。例えば肉が好きで、肉が食べられるお店となれば、とんでもない行動力を見せたりします。
確かに。スイーツでもそうですね。
そうそう。かつ人間関係においては、とにかく行動を起こすタイプ。ハブ的な役割を担っては、人と人を繋いでくれる人です。『青エク』の収録現場でも、彼の強みは大いに機能しています。
新しく誰かが現場に来ても、岡本くんがいれば安心できますもんね。
人を悪く言わない人でもありますね。他方、僕は人を腐す人ですから、僕らふたりでプラマイゼロみたいな感じです(笑)。あとは僕と(志摩役の)遊佐(浩二)さんで(勝呂役の)中井和哉さんをいじり、それをつっこむのぶがいて、さらにその周りで花澤さんたちがやんわりいじるという。
それこそ第1作目の頃は、中井さんがいじられキャラだなんて想像していなかったです。
「男の子役ってやったことある?」と、突然聞いてしまって(笑)
――アニメ第1作目が放送された13年前から共演を重ねてきたなかで、何かお相手との思い出はありますか?
そもそもちゃんと会話をする形で僕らがレギュラーをご一緒したのは、この作品が初めてだったんですよね。当時と今とでは、お互い仕事に対する向き合い方も全然違います。例えば花澤さんは、振られない限りは喋らなかったし(笑)。
ごめんなさい〜!
違う違う、俺のほうも女の子と喋らないタイプだったんです。現場で若い女の子と話して、「アイツ浮ついているな?」と思われるのが、舌を噛みちぎるくらい嫌だった時期があって。
そうだったんですか!?
そうそう。それが30歳手前くらいまで、何年も続いていたんですよね。
確かに、当時はあまりお話しする機会がなかった記憶です。福山さんがおっしゃるとおり、私は以前、本当に人見知りで、お話ししたくてもどうやって話しかけたら良いのか分からないし、私なんかが話しかけるなんて……という気持ちがあって。だからとにかく話しかけてきていただくのを待つ、そんなもじもじした人間でした。
『青エク』でご一緒するようになって、歳もだいぶ離れた花澤さんに、仕事上の話をどう振ったら良いのか、僕も分からなかったんですよ。それで一足飛びにいきなり本題から入る形でたびたび話しかけてしまい、恐らく困らせてしまっていただろうな……という思い出があります。
確かに!(笑) 心当たりがあるかもしれません。
そうなの。今思うとコミュニケーション不足すぎるだろ!と思うくらい、枕詞が何もなくて(笑)。いまだに覚えているのが、何話か進んだ頃の休憩時間中、対角線上に座っていた花澤さんのところへ行って、「男の子役ってやったことある?」と突然聞いたことがありました。僕のなかでは前段があったのですが、きっと聞かれた本人は、いきなり何の話か分からなかったと思います(笑)。
あれ、前段があったんですね!?
うん。自分のなかでは考えていることがあって。「ゼロではないですけど、あまり」と返ってきたので、「おかしいな……。多分これから増えるんじゃない?」と伝えて、そのまま席に戻ったんですけど。
あはは、謎すぎる!
本当に謎(笑)。自分でも家に帰ってから、「……待てよ……。そういえば今日、前段は頭のなかだけで喋っちゃってたよな……?」と気付きました(笑)。
でもそうやってきちんと見ていただけているのが、ありがたいです。
お互いの印象は“二の太刀”の人と“変態職人”
――お相手の印象についてはいかがですか?
僕の当時の花澤さんのイメージは、“二の太刀”の人。一の太刀は必ず相手に振らせつつ、それを二の太刀で斬りにくる人でした。小西克幸さんとかが「香菜ちゃん面白いんだよ!? 話しかけたら答えてくれるから!」と、別現場でけっこうな無茶振りをしていたんですけど、そこでの返しが面白いんですよ。
えー! そんなふうに思ってくれていたんですか!? ありがたすぎる(笑)。
また当時は可憐な役や薄幸な役をよくやられていたなかで、本作のしえみを聞いて、「この人は単なる天然でやっているのではなくて、ちゃんと中身が太い人だ」という印象を強く持ちました。それから本作以外でもご一緒してきたなかで、あのとき感じた印象はそのとおりなんだろうというのを、変わらず感じています。
嬉しいです。私は福山さんといえば、当時は変態の役でしかお会いしたことがなくて。
変質的な役ばかりやっていた頃にご一緒し始めたので、“変態職人”と言われていた時期だったんですよね(笑)。
でもそれがハマること自体、スゴいことだなと、私は目を丸くして見ていたんですよ。そんななかでの雪ちゃんだったからすごく新鮮で、より「カッコいい!」と思ったんです。
雪男みたいな役、なかなかないからね(笑)。
あとは最近思うのが、言語化するお力が本当に素晴らしいなと。こうしたインタビューはもちろん、以前ラジオ『アフター6ジャンクション』でも、どんなことを考えながら声のお芝居をしているか?というお話をされていたんです。
奇しくも僕らが同じコーナーに、ゲスト出演したことがあったんですよね。コロナ禍前くらいだったかな?「声のお芝居ってどんなものですか?」とインタビューを受けて。
お芝居のことを言葉にするって、すごく難しいんですけど、それを分かりやすくかつ論理的に説明されていたので、スゴいなと。きっと福山さんは常に何かを考えていらっしゃるんでしょうし、自分もこういうふうに生きなければ!と思わされます。
良いことない、良いことない(笑)。
いやいや、本当にスゴいなって! 人に教えるのも絶対お得意でしょうし、もしこの先自分がお芝居に悩むことがあったら、絶対福山さんに相談したいです。
多分ガサツなことを言って終わると思いますよ!
―――『雪ノ果篇』も残り2話となりました。最後に一言お願いします!
明るく楽しかった『青エク』から一変、雪男によって人間関係もぐちゃぐちゃになったりしていて、みなさん気が気じゃないと思います。本作のアニメが動き出した13年前、雪男と燐のぶつかり合いをはじめとする、その先ふたりに待ち受けているものを、どんな形でやれるだろうか?と個人的に考えていて。同時に、その頃の自分には表現やパワー、経験面で足らない要素が多いなとも感じていました。それから時が経ち、今回『島根啓明結社篇』が始まったときに、自分が培ってきたもの、やりたいと思ってきたものが、今まさに表に出せているという手応えを得ることができました。そこには吉田大輔監督たちが、細かな表情までこだわり抜いた画(え)のお芝居があって、そこに自分がどんな声のお芝居を付け、監督たちの狙いを具現化するかという、アフレコをやるうえで一番楽しい瞬間があったことも大きいです。この先どうなるんだ?という今後の物語に想いを馳せつつ、もし続きがあるのならば、僕は岡本信彦をボッコボコにしますので! その日が来るのが楽しみで仕方ありませんが、まずは最後まで、今回のアニメを見届けていただけたら幸いです。
みなさん雪ちゃんを心配しながら、ここまで『雪ノ果篇』をご覧になってきたかと思います。それぞれが自分の生き方を決断していく姿が描かれているので、ここからどう歩いていくのか、そしてしえみちゃんはなぜ祓魔師になるのを辞めてしまったのか……。この先のお話をぜひ楽しみにお待ちください! またこの後もしえみちゃんの活躍が待っていますので、そちらもお見逃しなく!